台所には冷え切った肉じゃが。失踪前夜、母が最後にかけたのは110番だった。だが警察は告げる。「お母様は助けを求めていません。十五年前のあなたの誘拐記録を尋ねてきただけです」と。母の桐箱から見つかったのは、警察が「救出時に着用」と記録し、私自身には着た記憶が一切ない青い上着。その裏地には何かを抜き取られた長方形の窪みがあった。母は一体、何を確かめに行ったのか。十五年守られた日常が、音を立てて崩れ落ちる。
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