"母が消える直前の電話は、警察宛てだった" 第3話
着をトートバッグに押し込み、私はタクシーを拾った。
利根川沿いの閑静な宅。 庭の入れがき届いた平のインターホンを押すと、しを置いて、髪の混じった柄な男性が顔をした。 背はし丸くなっていたが、その鋭いには、の面が濃く残っていた。
「……どちら様かな」 「佐藤美奈です。に、あなたに助けていただいた……佐藤隆志の、娘です」
さんの表が、凍りついたように止まった。 ドアノブを握る節くれだった指に、ぐっと力が入るのが見えた。
「美奈ちゃん……? 君が、どうして」 「母が、いなくなりました。昨の夜から、連絡が取れないんです」
さんは絶句した。 その顔に浮かんだのは、驚きだけではなかった。 な、揺。 そして、どこか覚悟していたようないだった。
「……がりなさい。ち話をする内容じゃない」
通された客には、退職記の盾や警察関係の表彰状が几帳面に並べられていた。 さんはたい緑茶を私のに置き、いため息をついた。
「お母さん……恵子さんだな。ここに来たよ」 「え……?」 「だ。突然訪ねてこられた。『どうしても確認したいことがある』と」
臓がねがった。 。 失踪する直、母はやはりここに来ていた。
「母は、何を言っていたんですか?」 「枚の、写真を持っていた」
さんはちがり、斎の戸棚から分い革張りのファイルを持ってきた。
広告
警察帳を模した、個の捜査誌の控え。
「君の事件は、私の警察のでも特に記憶に残っている。あのは寒かった。犯の浩を確保し、君を救した。私は事件が完全に解決したと信じて疑わなかった」
さんがファイルをめくり、枚のカラー写真をテーブルのに滑らせた。
「これだ。恵子さんが持ってきたのは、これと同じ写真の焼き増しだった」
写真を見た瞬、私の息が止まった。
夜のの、赤灯のに照らしされた面。 規制線の黄いテープの向こう側で、誰かに抱きかかえられているさな女。 恐怖で顔をぐしゃぐしゃにして泣いている、歳の私だ。
そして、その私の肩には。
鮮やかなロイヤルブルーのウインドブレーカーが、しっかりと羽織らされていた。
……嘘でしょう? どうして?
「私は、着ていませんでした」 声が掠れて、喉から絞りすようにた。
「さん、私、救されたときはいグレーのセーター枚でした。絶対にそうです! 寒くて震えていた覚を、皮膚が覚えているんです!」 「美奈ちゃん。の記憶というのは、極限状態では曖昧になるものだ」
さんは静かに、諭すように言った。
「解性健忘という言葉がある。烈なトラウマを経験した子供は、現の記憶の部を無識に改ざんしたり、の来事と取り違えたりすることがあるんだ。
広告
君が覚えている『セーター枚の記憶』は、救直のことではなく、のにいたのものかもしれない。誰かが君を保護した直、防寒のために現にあったその着を着せたんだよ」
「違います!」 私はトートバッグから、あの青い着を乱暴に引っ張りした。 畳のに広げる。
「見てください、これです! 母のタンスの奥、京錠のかかった箱のにずっと入っていたんです! もし現で私がこれを着ていたなら、警察が証拠品として押収したはずでしょう? どうして母が持っているんですか!?」
さんの目が、青いナイロンのに釘付けになった。 彼は無言でを伸ばし、の質を確かめるように指を滑らせた。 そして、裏の縫いのまつり縫いと、そこに残された方形の窪みに触れた瞬、老刑事の顔から完全に血の気が引いた。
「……これは」 「何かを入れるために縫い直されています。マイクロSDカードくらいのきさのものです。母は、これを隠していたんです」
沈黙が部を支配した。 計の秒針の音だけが、障りなほど正確に刻まれている。
さんは額にを当て、く、くを垂れた。
「……恵子さんも、全く同じことを言っていた」 「え……?」 「、この写真を見た恵子さんは、泣き叫ぶように私に詰め寄った。『このが、現にあるはずがない』『これは私が、娘が戻ってきたに、押し入れからしたものだ』と」