"母が消える直前の電話は、警察宛てだった" 第11話
階の窓の隙で、煙のが度赤く滅し、ふっと消えた。
……び込めば、殺される。
あの男のには、に父を始末し、を使って私を誘拐させ、今また母を監禁している酷な計算がある。 丸腰の歳の女がび込んだところで、まとめて利根川の底に沈められて終わりだ。
指先が凍りつくようにたい。 震えるでスマートフォンの画面を覆い、輝度を最まで落とした。
LINEのトーク画面。相は元警部。 病院でコピーした『救急搬送初診カルテ』の写真。 写友堂から受け取った『佐藤物流08』の超解像度データ。 津田さんから聞きした抹消登録の事実。 そして、さっきのプレハブで録音した、浩の自音声。
すべてのファイルを添付し、現のGPS位置報を貼り付けた。
『赤面、旧第材ヤード。野寺が母を拘束しています。本が階にいます。今からで入ります。分に連絡が取れなければ踏み込んでください』
送信。 既読がつくのを待つ余裕はない。
息を吸い込んだ。 肺の奥に、氷の塊が落ちてきたような痛みがる。 恐怖で膝がガクガクと震えていた。 でも、議と界だけは、今までにないほどクリアだった。
、私たちはあの男の嘘のできてきた。 父を殺した犯にをげ、学の保証になってもらい、カウンセリングの費用をしてもらい、「優しいおじさん」
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と呼んで謝してきた。
その屈辱を終わらせる。
元のアスファルトの破片を蹴りばした。 ジャリ、と乾いた音が静寂を引き裂く。
「……誰だ」
階の窓から、く鋭い声がってきた。 私は隠れるのをやめ、堂々と倉庫の正面の錆びた鉄扉のにった。
「美奈です」
夜ので、自分の声が響いた。 震えは止まっていた。
「野寺のおじさん。……母を返しに来ました」
数秒の、のような沈黙。 やがて、軋むようない属音をてて、正面のさな通用が内側からいた。
暗い裸球ののに、仕てのいいチャコールグレーのウールコートを着た男がっていた。 には、折りたたみ式のさな果物ナイフ。 刃先は鈍くり、男の瞳は濁った魚のようにたかった。
「……美奈ちゃん。どうしてここが分かった」
声は穏やかだった。 けれど、その唇の端が微かに引き攣っている。
「どうしてで来た。誰かに話したのか」 「誰も信じてくれませんでした。警察も、親戚も。……だから、おじさんに取引をしに来たんです」
「取引?」 野寺の眉がピクリといた。
「母はどこですか。母の顔を見せてくれなきゃ、何も話しません」
野寺は数秒、私の顔を値踏みするように見つめていたが、やがてく息を吐き、顎で奥を指した。
「入りなさい。邪をひく」
倉庫のは、オイルと鉄錆、そして湿った段ボールの饐えた匂いが充満していた。
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奥のパイプ子。 そこに、のカーディガン枚の母が、ビニール紐で両腕をろに縛られて座らされていた。
「……お母さん!」
駆け寄ろうとした瞬、野寺のが私の髪を掴んだ。 凄まじい力だった。 皮が引きちぎれるような痛みに、わず声が漏れる。
「くなと言ったはずだ」 元で囁かれた声は、もはやのそれではない。
「美奈……逃げ……なさい……」 母が、腫れがった唇から掠れた声を絞りした。 顔の半分が青黒く鬱血している。 元には、え切ったコンクリートのに裸のまま投げされた母の。
喉の奥から、煮えたぎるようなりが競りがってきた。
「、私の青い着から抜き取ったメモリーカード……読めなかったでしょう」
野寺のきが、ぴたりと止まった。 私を掴んでいたの力が、わずかに緩む。
「……何だと?」
「から全部聞きました。あのの朝、あなたが私を誘拐させてまで欲しがったのは、父の告発データだった。でも、救のどさくさに紛れてあなたが着から盗みしたマイクロSDは……暗号化されていて、けなかったはずよ」
ハッタリだった。 は「空箱」だと言っていた。 けれど、野寺が、私たち母娘を殺しもせず、かといって放しもせず、監に置き続けてきた理由はつしかない。
確証が持てなかったのだ。
自分がに入れたものが本物なのか、それともまだ別のデータがするのか。