"母が消える直前の電話は、警察宛てだった" 第2話
あの青いウインドブレーカーは、事件が終わって、数に病院から実へ戻ったあと、母がタンスの奥から取りして私に着せてくれただ。 『寒かったでしょう。これを着ていなさい』と、泣きながら私の背を抱きしめた母のの温もりを、忘れるはずがない。
警察に証拠品として提したことすらない。 ずっと、実にあったはずのだ。
「ですが」 警察官は眉を寄せ、過の事件簿の照会データを指先でトントンと叩いた。
「当の捜査報告の約データには、こう記録されています。『被疑者確保、被害女児救。被害者は発見、青の着を着用』と」
息が止まりそうになった。
警察の記録と、私の記憶が、真っ向から正面から衝突している。
どっちかが、嘘をついている。 私の記憶がのトラウマで歪んでいるのか。 それとも、警察の公式記録が、しない着を図に捏造したのか。
「お母様は、その着の所をしつこく確認された、『わかりました、自分で確かめます』と言って話を切られました。ですから、現点では事件としての受理はできません。当たりのあるご親戚や、おりいのを探してみてください」
警察署をたとき、群馬のたい赤颪(おろし)が頬を叩いた。 界がく滲む。 世体。 自己責任。 警察のあの淡な目つき。
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代の女がいなくなったくらいで、警察はかない。 自分たちで探せ、と突き放されたのだ。
私は踵を返し、母のアパートへとって戻った。
確かめなければならない。 あの青い着が、今どこにあるのか。
畳と畳半の、古い県営宅。 玄関にちこめる、わずかな油の匂い。 母の寝の隅には、祖母の代から受け継がれたという、古い桐の装箱が鎮座している。
母はこの箱に、常に真鍮のさな京錠をかけていた。 『事な着物が入っているから』と、幼い私には決して触らせなかった所。
台所の引きしの奥、裁縫箱の針刺しの底を指でまさぐる。 あった。 油に包まれた、さな鍵。
が汗で滑る。 カチリ、とい属音が静かな部に響いた。
装箱の蓋を持ちげる。 防虫剤のツンとした匂いがをつく。 褪せた着物と、古いウールの毛布。 その番底、古い聞に包まれた塊があった。
指先が、滑らかなナイロンの触に触れた。
引きずりす。 青い。 褪せることもなく、と同じ、鮮烈なロイヤルブルー。
実物はある。 警察の保管庫なんかじゃない。 母の、このかずの装箱のに、ずっと眠っていた。
じゃあ、警察の捜査報告にかれていた『救、青の着を着用』という記録は何だったのか?
着を抱きしめた瞬、違を覚えた。
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裾のあたりが、わずかにい。
裏をめくる。 ナイロンの内側、腰の側にあたる部分。 本来なら械で均に縫われているはずの裏の縫い目が、そこだけ格好に歪んでいた。
縫いだ。 しかも、黒い糸で、極めて目の粗いまつり縫いが施されている。 らかに、度布を切り裂き、何かをに入れ、再び作業で塞いだ跡。
震える指で、その縫い目のから布を撫でた。
布の向こう側に、固い触があった。 ……いや、固い『異物』そのものじゃない。
何かが、そこにく押し込まれていたことによってできた、繊維の窪み。 縦ミリ、横ミリ。 さミリにも満たない、くてい方形の型押しのような跡。
型の、メモリーカード。
ので、カチリと音がした。 母は、に私が着ていたを懐かしんで保管していたんじゃない。 このの裏に何かを隠し、それを守るために、京錠をかけて隠し続けていたんだ。
そして今、その窪みのは、空っぽだった。
母が取りしたのか? それとも、誰かに奪われたのか?
「……さん」
母が昨夜、警察に話してまで居所を聞きそうとしていた名。 正雄。 、泣き叫ぶ私をプレハブから抱きげて、救急に乗せてくれたベテラン刑事。
母の机の引きし、古い所録の端に、鉛で殴りきされたメモが残されていた。
『元警部 敷島町……』 母は、警察に断られた、自力でさんの現所を突き止めていたのだ。