"母が消える直前の電話は、警察宛てだった" 第4話
さんの呼吸が荒くなっていた。
「私は最初、恵子さんも記憶の混濁を起こしているのだとった。だが……もし君たちの記憶が正しくて、このが事件当に君の自宅にあったのだとすれば、話の提が根底から覆る」
「どういうことですか?」
さんは、テーブルのの写真の端を指差した。
「この写真は、警察の鑑識課が撮った公式の捜査記録用写真じゃない」 「……え?」 「アングルがおかしい。規制線の内側からではなく、規制線の、にめられた般両のから盗み見るように撮されている。警察の広報にも、報各社にも、こんな写真はしない。誰かが、私に撮したものだ」
写真の。 粗い粒子のに、濡れたアスファルトと、黒塗りの級セダンのフロントノーズがぼんやりと写り込んでいた。
ナンバープレートの名と数字。 『群馬33 ……』
「あの、警察無線を聞きつけて、君の救現の側に駆けつけていた般がだけいた」
さんの声が、微かに震えていた。 その瞳の奥に、決して疑うことのなかった『常識』が崩壊していく恐怖が見えた。
「君のくなった父親の元司で……君が救された、君ののケアのためのカウンセリング費用を全額面してくれた、あの会社の社だ」
背の毛穴が、斉にいたような悪寒がった。
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「……野寺、さん?」
野寺誠。 父がんだ、途方に暮れていた私たち母娘を物両面で支えてくれた恩。 母が失踪した今朝も、配して真っ先に私の携帯に「何か力になれることはないか」と連絡をくれた、あの優しい野寺のおじさん。
さんは、いをいた。
「このを運転して現に来ていたのは、野寺誠さんだ。……そして、君にこの青い着を羽織らせたのも、警察官じゃない。救急が到着する直、混乱に乗じて君に駆け寄り、『お母さんから預かってきたよ』と言って着を着せたのは……野寺さんだったはずだ」
スマートフォンの着信音が、静まり返った客に鋭く響き渡った。
液晶画面に浮かびがった名を見た瞬、胃の底がに浸されたようにえ切った。
『野寺誠』
元警部と私の線が、空でぶつかった。 元警部は何も言わず、ただ顎を引いて「なさい」と図した。 指先が震えて、通話ボタンをスライドさせるのに秒かかった。
「……もしもし」 喉を湿らせ、できる限りから変わらない「守られる側の姪」の声を作った。
「美奈ちゃんかい? 今、どこにいるんだ」 受話器の向こうから聞こえてきたのは、に馴染んだ、穏やかでく包容力のある声だった。
父親が突然の交通事故でくなってからの、困ったことがあるたびに母と私を助けてくれた、あの恩の声。
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「あちこち探したんだよ。お母さんのスーパーにも顔をしたが、まだ連絡は取れないんだろう? 警察にはもうったかい」 「……はい。朝番で、署にってきました」
「そうか。どうだった」 声の調子はごく自然だった。 しかし、その奥にある僅かなの取り方に、今までにない違を覚えた。 探っている。 警察が何を話し、私が何を掴んだのかを、慎に測っている。
「事件性はないって言われました。の扱いだって……」 あえて落胆した声を絞りし、をすする音を混ぜた。
「そうだろうな。あの連は血でも流れていないとかない。美奈ちゃん、無理をしちゃいけないよ。何か掛かりは見つかったかい? たとえば、お母さんが最気にしていた昔の類だとか、急ぎで処分しようとしていた古い荷物だとか……当たりはないかい」
古い荷物。 その言葉がに突き刺さった。
桐の装箱。青いウインドブレーカー。縫いの裏。 全部、ので本の線に繋がっていく。
「……いえ。部もそのままで、何つ見つかりません。どうしたらいいか分からなくて」 「よし、分かった。美奈ちゃんはもうに戻りなさい。私のほうでも当たりを当たってみる。叔父さんに任せなさい」
通話が切れた。 ツコツコと鳴る乾いた切断音を聞きながら、私はスマートフォンの画面を伏せた。
のひらに、べっとりと脂汗が滲んでいた。
「……野寺さんは、探しているな」 元警部が、急須の茶をすすりながらく呟いた。