2014年9月20日。 早朝水泳へ出かけた母・中原真理子は、そのまま帰ってこなかった。 「一時間だけだから」 それが、娘の美咲が最後に聞いた母の言葉だった。 携帯電話、財布、家の鍵は更衣室のロッカーに残されたまま。 プールサイドには、濡れた水泳帽と浴巾。 そして、非常口の近くには青いサンダルが落ちていた。 警察は、泳いだ後に体調を崩し、海へ流された事故として捜査を進める。 六人の目撃者も口をそろえた。 「確かに、中原さんは泳いでいました」 しかし七年後。 老朽化したプールの改修工事で、新たな記録が発見される。 そこに残されていたのは―― 中原真理子が、一度もプールへ入っていなかったという証拠だった。 母は泳いでいない。 では、あの日プールで見られていた女性は誰だったのか。 なぜ六人は同じ嘘をついたのか。 そして、母が本当に最後にいた場所とは。 七年間、海の中を探し続けた娘が知ることになる。 母が隠していた最後の一時間。 そこには、家族も知らなかった真実が残されていた。