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昨日まで正しかった教科書

昨日まで正しかった教科書

縁側の鉛筆 完結 29

「昨日まで大事だと教えたのに、今日から黒く塗るんですか?」 昭和20年9月、終戦からひと月も経たない教室。 先生は墨と筆を並べ、国語と修身の教科書を塗りつぶすよう命じた。 昨日まで全員で暗記した文章が、黒い線の下へ消えていく。 しかし12歳の誠一だけは、筆を取らなかった。 「昨日まで正しかったものが、今日になったら間違いなんですか」 先生は答えられず、誠一の母が学校へ呼ばれた。 母は教科書を開くと、意外にも自ら墨の筆を握った。 「健兄ちゃんも、この教科書を信じて出征したんだよ!」 誠一が叫ぶと、母の手が止まった。 それでも母は、震える声で言った。 「兄ちゃんが信じたからこそ、あなたまで同じものに縛られなくていい」 やがて誠一は泣きながら本文を塗り始めた。 だが黒く染まったページの余白には、帰らない兄が鉛筆で残した一行だけがあった。

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