42年間勤めた会社を退職したその夜、62歳の高橋信夫は、娘夫婦から一枚の紙を渡された。 そこに書かれていたのは、退職祝いの言葉ではなく、《おじいちゃん担当表》。孫の送迎、夕食作り、買い出し、風呂と寝かしつけ――信夫の自由になったはずの時間は、家族によって勝手に埋められていた。 さらに、娘夫婦は一時的な滞在のはずが、期限のない同居を考えていた。信夫の書斎は孫の部屋にされ、保育園の書類には本人の知らない署名まで残されている。 「家族のため」という言葉の裏で、誰の時間が犠牲にされていたのか。 退職後の人生を奪われかけた父が、自分の居場所と家族との距離を取り戻していく物語。