"退職祝いは「孫の勤務表」" 第1話
勤めた会社を退職した夜、娘婿は僕のへ枚のを置いた。
「お義父さん、からお願いします」
の番には、《おじいちゃん担当表》と印刷されていた。曜と曜は孫の保育園への迎え、曜は夕作り、曜は習い事への送迎、曜は呂と寝かしつけ。曜の午には、族分の買いしまで入っている。
僕はを持ったまま、娘の麻を見た。歳の麻は目をわせず、歳の結菜へジュースを注いでいた。妻の久美子は台所から、蔵庫に貼る磁を持ってきた。
「見やすいところに貼っておきましょう」
「ちょっと待て。これは何の話だ」
僕は歳まで、鉄会社の施設保全部で働いた。線脇の設備や駅の照を点検し、故障があれば夜でも現へ向かった。退職はしばらく休み、になったらの廃線跡をで歩くつもりだった。
そのためにしいカメラも買い、宿の候補をノートへいていた。
「から話してたじゃない。麻たち、来までには引っ越してくるって」
久美子が当然のように言った。
「かだけ泊まるとは聞いた。今のマンションの事が終わるまでだろう」
娘婿の直が咳払いをした。
「予定が変わりまして。更期でもありますし、賃もいので、当分こちらでお世話になろうかと」
広告
「当分とは、どのくらいだ」
「が見つかるまでです」
答えになっていなかった。
僕たちのは築、LDKの戸建てだ。階には夫婦の寝、麻が使っていた部、僕の斎、物置がある。娘夫婦と孫がか泊まるなら何とかなるが、期同居となれば話は違う。
「部はどうする」
「お父さんの斎を、結菜の部にしようとってる」
麻がようやくをいた。
「パソコンと本は物置へ移せるでしょう。カメラも押し入れに入るし」
僕の斎は畳しかない。退職に写真を理し、資格の勉もできるよう、半に自分で棚を作った。それを族は、空いている部だとっていたらしい。
「誰が決めた」
声がくなった。
結菜がそうに僕を見たため、鳴ることはしなかった。直は子どものを撫でながら、「皆で相談しました」と答えた。
「その皆に、僕は入っていないのか」
卓が静かになった。
久美子は、僕が退職すればができる、麻は仕事と育児で疲れている、族が助けうのは当然だと説した。保育園の迎えは午までで、麻の会社からにわないがい。直も営業職で帰宅が遅いという。
「僕ができるに伝うことは考える。でも、この表どおり毎週働く約束はしていない」
「働くって、孫の世話でしょう」
麻が顔をげた。
広告
「お父さん、私がさいは何もしてくれなかったじゃない。お母さんに全部任せてた。今度くらい族のためにを使ってもいいでしょう」
胸の奥を突かれた。
麻が子どもの頃、僕は仕事を理由に帰宅が遅く、運会も度欠席した。久美子がをしたも、夜勤を代わってもらえず、所の義姉に頼った。娘の言葉には、返せない部分があった。
「昔の埋めわせとして、孫の世話をするのか」
「そういう言い方、ずるいよ」
麻は泣きそうな顔をした。
直がへ入った。
「全部やってほしいわけではありません。お義父さんも退職して、急に何もなくなると張りいがないでしょう。結菜もびますし、お互いにいいとったんです」
仕事を失った老へ役割を与えてやる、という響きがあった。
僕は担当表をつに折り、直へ返した。
「は何もしない。予定を決めるなら、まず僕を入れて話しおう」
麻は唇をかみ、久美子は骨にため息をついた。
「せっかくの退職祝いなのに」
テーブルには、スーパーで買った寿司と、僕の名がかれたさなケーキがあった。だが、祝いの席で僕に渡されたのは、自由になったを族が先に割り振った勤務表だった。
その夜、斎へ入ると、机の横に段ボール箱がつ積まれていた。《お父さんの本》《処分確認》《物置へ》と、麻の字でかれている。
まだ同居は始まっていない。
それなのに、僕の部の引っ越しだけは、すでに始まっていた。