"桜袴の女組長" 第12話
「社はだいぶしくなりました」
ある晩、黒が報告に来た。
「奥様の件もあり、会社内でのもくなっているようです」
「会社は回っている?」
「はい。従業員への響は最限です」
「それでいいわ」
私は資料を閉じた。
「社個には責任を取らせる。でも、従業員たちに罪はない」
「姉さんなら、そう仰るとっておりました」
黒は静かにをげた。
私は窓のを見た。
庭では、結が学から持ち帰った朝顔の鉢が置かれている。まださな芽だが、毎朝結がをやっている。芽が伸びるたびに、結は嬉しそうに私を呼ぶ。
「お母さん、見て! また伸びてる!」
その声を聞くたび、私は今の活を守らなければならないとう。
黒は報告を終えると、いつものようにちがった。
「姉さん、何かあればいつでもお呼びください」
「黒」
「はい」
「学のくにを置く必はないわ」
黒はしだけ黙った。
「しかし、万がということもあります」
「結に普通の活をさせたいの。過剰に守れば、あの子は普通ではいられなくなる」
黒は私の言葉を聞き、く頷いた。
「承しました。くから、気づかれない形で最限にします」
私は苦笑した。
「あなたも譲らないわね」
「姉さんとお嬢さんを守るのが、私の役目ですので」
その言葉に、私は何も言い返せなかった。
黒が帰った、私は結の部を覗いた。
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結は机に向かって宿題をしていた。鉛を握り、真剣な顔でひらがなをいている。
「結、難しい?」
「ううん。丈夫」
そう言いながら、結はしだけ舌をして字をいていた。
その姿があまりに普通で、私は胸が締めつけられた。
この普通を守りたい。
ただ、それだけだった。
私は静かに部をれ、居へ戻った。
桐箱にしまった袴をそっとす。修繕された袖を撫でると、滑らかな布の触が指先に伝わった。
母の形見。
あの、礼子に引き裂かれた袴。
けれど、今は元通りになっている。
いや、正確には元通りではない。
度傷ついたものは、完全に過へ戻ることはできない。
けれど、傷を抱えたまま、また切にしていくことはできる。
それはも同じだ。
私は健太を失った。
母も失った。
裏のに入ったことで、失ったものもい。
けれど、結がいる。
守るべきものがある。
だから私は、まだっていられる。
翌朝、私はいつものように結と学へ向かった。
桜の季節は終わり、若葉が枝を覆い始めていた。のはし柔らかくなり、子どもたちの笑い声が通学に響いている。
結は隣で元気に歩いていた。
「今ね、真央ちゃんと休みに絵を描くの」
「そう。何を描くの?」
「お。あと、お母さんも描く」
「私?」
「うん。お母さん、かっこいいから」
わず笑ってしまった。
「かっこいいお母さんより、普通のお母さんがいいんじゃない?」
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結はし考えてから、首をかしげた。
「どっちも好き」
その言葉に、胸が温かくなった。
にづくと、何かの保護者がこちらに気づき、静かに会釈をした。私は軽く返した。
そこに、礼子の姿はなかった。
かつてを支配していたような彼女の声も、取り巻きたちの笑い声もない。
ただ、子どもたちのるい声と、朝のだけがあった。
結はので私を振り返った。
「ってきます」
「ってらっしゃい」
私はいつものようにを振った。
結は友達の姿を見つけると、りで駆けていった。
そのろ姿を見送りながら、私は空を見げた。
青い空に、いがゆっくり流れている。
お母さん、私、頑張ってるよ。
あなたの教え、守ってるよ。
のでそう語りかける。
そして健太にも。
結は今も、普通の子として学へったよ。
私は約束を守る。
どんな形になっても。
私は2つの顔を持ってきていく。
裏のを歩く組として。
そして、娘をする母親として。
を見た目だけで判断してはいけない。
誰にでも、見えない背景がある。
の切なものを軽々しく扱ってはいけない。
そして、どんなを歩んでいても、としての筋だけは通さなければならない。
それが母が私に教えてくれたことだった。
私はので、静かに息を吸った。
若葉のりがした。
もう桜のびらはっていない。
けれど、あのの桜は、私のにまだ残っている。
破れた袴。
泣いた娘。
まみれで座した礼子。
黒塗りの。
母の声。
健太の願い。
すべてを背負って、私は今も歩いていく。
結を守りながら。
としての筋を通しながら。
それが、私の選んだだ。
そして私は、そのを悔していない。
完
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