みかん小説
本棚

"クリニックの天才少女" 第3話

メイはすぐに掃除具をに取った。

を丁寧に拭き、窓を磨き、ベンチの隅の埃まで綺麗にしていく。

黙々と乱に。そのつきには迷いがなかった。

が窓から差し込んで磨かれたばかりのガラスをキラキラと照らした。

私はコーヒーを入れながら何気なくその様子を眺めていた。

掃除の際がいい。それだけじゃない。

なんというか丁寧なのだ。ベンチの 1 つ 1 つをまるで切なものを扱うように拭いている。

この子は物を切にするだな。そんなことをぼんやりった。

8 になると翔太とせ子が勤してきた。

翔太は彼女を瞥して何も言わずに診察に入っていった。

その背が「俺は認めてないからな」と語っていた。

せ子は受付に座りながらちらりとメイの方を見た。

「あんた掃除はそこじゃなくてトイレからやって。それからゴミ袋の補充と薬品棚の拭き掃除。あと待の雑誌が古いから入れ替えておいて。」

次から次へと指示がぶ。調はぶっきらぼうだった。たいと言ってもいい。

「はい、わかりました。」

メイは素直に頷いて言われた通りにいた。文句 1 つ言わなかった。

それから数が経った。

メイは毎朝 6 に来て誰よりも遅く帰った。

掃除、ゴミし、類の理、トイレ掃除、薬品棚の拭き掃除。

言われたことは何でもやった。

広告

言われていないことも気がつけばやっていた。

瓶のがいつのにか変わっていたり、スリッパが綺麗に並んでいたり。

でも誰もそれに気づかなかった。なくともして褒めるはいなかった。

昼休み、さな休憩でメイは隅に座ってコンビニのおにぎりをべていた。1 個だけ 130 円の塩むすび。

翔太とせ子はれたテーブルで昼を取っている。

「なあ、あの子まだいるのか?」

翔太がお茶をすすりながら声を潜めて言った。

潜めたつもりなんだろうがさな休憩では筒抜けだ。

「いるわよ。毎朝 6 に来てるわ。」

せ子が答えた。

「真面目なのは認めるけどさ、来にはこの診療所自体がなくなるかもしれないのに、かわいそうなことしてるよな、親父も。」

「そうね。」

せ子の返事はかった。何か含みのあるような、ないような。

「しかし今卒ってどういう事なんだか。」

翔太がぼそりと言った。

その言が休憩の空気をわずかに変えた。

メイは聞こえないふりをしておにぎりを噛んでいた。俯いたまま黙って。

でも私には見えた。おにぎりを持つがかすかに震えていたこと、唇をキュッと噛みしめていたことが。

胸が痛んだ。

翔太に悪気があるわけじゃない。せ子だって悪で言っているわけじゃないだろう。

でも無識の言葉こそがく傷つけることがある。

広告

私はそれをっていた。

の診察が始まった。

いつものように常連のお寄りたちがぽつりぽつりとやってくる。

膝が痛い田のおばあちゃん。血圧がめの佐々のおじいさん。肩こりがひどい渡辺のおばちゃん。みんな顔馴染みだ。

「先、今もよろしくお願いしますね。」

「はい。はい。いつもの薬しておきますよ。」

そんなやり取りをしながらふと待の方に目をやった。

メイが待のベンチを拭いていた。いや、拭いているふりをしていた。

いているが、目は別のところを見ていた。

に座っている患者さんたちをじっと観察しているのだ。

その目つきが掃除をしているとはらかに違っていた。鋭いというのとも違う。何というか真剣なのだ。

患者さんのを 1 つも見逃すまいとするような目。

議だなとった。でもそのはそれだけだった。

1 週が過ぎた。

メイは相変わらず誰よりもく来て誰よりも遅く帰った。

はあかぎれだらけになっていたが文句は言も言わなかった。

翔太は相変わらずメイを無していたし、せ子は必限の指示をすだけだった。

そのの午のことだ。

いつものように常連の岸のおじいさんがいらっしゃった。82 歳。

膝の具が悪くてに 2 回ほど通ってきてくれている。

いつもニコニコ笑って待で隣のとおしゃべりするのが好きな穏やかなだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: