昭和23年。空襲で両親を失った15歳の照子は、9歳の弟・勇とともに、上野駅の地下道で暮らしていた。 どれほど離れて行動しても、夜になれば必ず大きな柱のそばへ戻る。それが、姉弟が生き延びるために交わした、たった一つの約束だった。 ところがある冬の夕方、照子が地下道へ戻ると、柱の下には勇の靴が片方だけ残されていた。駅前や闇市を必死に捜しても弟は見つからず、警察も家のない子どもの訴えをまともに取り合ってはくれなかった。 数日後、勇が郊外の児童保護施設にいると知った照子は、すぐに会わせてほしいと頼む。しかし職員から告げられたのは、思いもよらない言葉だった。 「弟さんは、姉はいないと言っています」 寒さも空腹も二人で耐えてきたはずなのに、なぜ勇は姉の存在を隠したのか。戦後の地下道で離ればなれになった姉弟が、それぞれ胸に抱えていた小さな決意が明らかになる――。