2003年春、群馬県の伊香保温泉街で、24歳の女性巡査・田中美咲が勤務中に忽然と姿を消した。 最後の無線は「これより署に戻ります」という、ごく普通の報告だった。だがその後、美咲は警察署へ戻ることなく、携帯もつながらず、温泉街から完全に姿を消してしまう。 家族、同僚、地域の人々が必死に捜索を続けたが、手がかりは見つからない。観光客で賑わう石段街、防犯カメラの少ない時代、廃業した旅館、そして誰にも気づかれなかった空白の時間――。 事件は未解決のまま、16年の歳月が流れた。 しかし2019年、古い防犯映像の再解析によって、美咲が最後に向かった可能性のある場所が浮かび上がる。 それは、温泉街の奥にひっそりと残された廃旅館「松風荘」だった。 朽ちた建物の地下室で見つかったのは、錆びついた手錠と小さな鍵。そして壁に刻まれていた、ある名前。 16年間、湯けむりの中に隠されていた真実が、ようやく動き出す。