"消えた女性巡査" 第2話
「田巡査!」
署員たちは、に分かれ、旅館、商、裏、駐を探した。元の消防団、観協会、旅館組も協力した。温泉の々も、ただならぬ雰囲気を察して先にてきた。
「田さんがいなくなったって?」
「さっきまで巡回していたのに」
「まさか、事件に巻き込まれたんじゃ……」
は、湯けむりのように温泉全体へ広がっていった。
翌、県警本部から捜査課の精鋭が派遣された。捜査本部が設置され、規模な捜索が始まった。温泉のすべての旅館、ホテル、商、宅が1軒1軒調べられた。防犯カメラの映像も徹底に確認された。
しかし、2003当の防犯カメラは、現ほどく設置されていなかった。温泉にあるわずかなカメラにも、美咲の姿はほとんど映っていなかった。
最に確認できたのは、午3頃、段段を歩く美咲のろ姿だった。
「何かがかりはないのか」
捜査本部は苛ちを隠せなかった。
美咲の両親も、連現に駆けつけた。
母の千鶴子は、娘の写真を胸に抱えながら段を歩き回った。美咲が歩いたであろうを、何度も何度もたどった。声が枯れても、名を呼び続けた。
「美咲……美咲、どこにいるの?」
その声は、温泉に響く痛な叫びとなった。
父の正は、妻の背を支えながら、必に涙をこらえていた。弟の健太も学を休み、捜索に加わった。
広告
当21歳だった健太にとって、姉は幼い頃から憧れのだった。
「姉ちゃんは、絶対に自分からいなくなったりしない」
健太は何度もそう言った。
1週が過ぎた。
2週が過ぎた。
けれど、がかりらしいがかりは何ひとつ見つからなかった。
まるで美咲は、温泉の湯けむりのに溶けて消えてしまったかのようだった。
捜査線には、温泉に入りした審物の能性も浮かんだ。だが観である伊保には、毎くのが訪れる。旅館客、帰り客、業者、タクシー、観バス。そのから特定の物を絞り込むことは困難を極めた。
1かが過ぎた頃、捜査本部は縮された。
それでも、渋川警察署では美咲の捜索が続けられた。田巡査部は、勤務にも1で温泉を歩いた。段の、廃業した舗の裏、旅館の倉庫、へ続く細い。どこかに美咲の痕跡が残っているのではないかと、諦めきれなかった。
「美咲はきている。きっときているはずだ」
田はそう信じて疑わなかった。
けれど、だけが無に過ぎていった。
半が過ぎる頃、季節はからへ移った。伊保温泉は景に包まれた。観客の音は相変わらず段に響いていたが、美咲のことを話題にするはしずつ減っていった。
それでも、美咲の族だけは諦めなかった。
広告
千鶴子は娘の部をそのままにしていた。制姿の写真を飾り、毎をわせた。
「美咲はんだわけじゃない」
千鶴子はそう信じていた。
しかし、胸の奥にあるは、ににくなっていった。
1が過ぎ、2が過ぎた。
報はしずつ減っていった。世の関もれていった。しい事件が起こり、しいニュースが流れるたび、田美咲の失踪は過の来事として押し流されていった。
けれど、美咲の族にとっては止まったままだった。
母の千鶴子は、毎のように伊保温泉を訪れた。娘の写真をに、旅館や産物を回り、しく働き始めた従業員や観客にも声をかけた。
「この娘を見かけませんでしたか」
同じ質問を、何度も何度も繰り返した。
くのは同してくれた。には涙ぐみながら「く見つかるといいですね」と言ってくれるもいた。だが、力な報は得られなかった。
父の正は、そんな千鶴子を支えながらも、しずつ現実に押しつぶされていった。娘の名をにすることがなくなり、ではい沈黙が増えた。
弟の健太は学を卒業し、般企業に就職した。社会になっても、姉へのいは変わらなかった。仕事帰りのので、ふと制姿の女性警察官を見ると、胸が締めつけられた。
「いつか真実をりたい」
健太はの奥で、ずっとそう願っていた。
渋川警察署でも、美咲の事件は未解決事件として引き継がれていった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
灯油札の密告
2005年11月、長野県の山あいにある静かな村で、工藤家の住宅が深夜に炎に包まれた。 家の中には、父と母、そして7歳の息子。近所の人々が助け出そうと駆けつけるが、玄関には外側から鎖と南京錠が掛けられ、勝手口も角材で封じられていた。 これは事故ではない。 誰かが一家を逃げられないように閉じ込め、火を放ったのだ。 村人たちは涙ながらに犯人探しを願い、特に隣人の男は誰よりも深く悲しんでいるように見えた。だが刑事・星野は、焼け跡に残された不自然な痕跡と、その男の身体にあった小さな傷に違和感を覚える。 そして事件から数日後、町の貴金属店に持ち込まれた大量の一万円札が、捜査を大きく動かす。 その紙幣には、かすかな灯油の匂いが残っていた。 炎で消されたはずの夜に、いったい何があったのか。 そして、最後まで燃え残った“匂い”は、誰の罪を指し示していたのか――。ミステリー|遺體発見2.3萬字5 67 -
完結第10話
雪下の赤いマフラー
1998年11月12日、雪の降る旭川で、赤いマフラーを巻いた3人の女子高校生が忽然と姿を消した。 双子の美咲と南、そして親友の彩。3人は放課後の演劇部の練習を終え、いつものように学校を出たはずだった。だが、その日を境に、家族のもとへ帰ることはなかった。 捜索は続いたが、足跡も持ち物も見つからない。吹雪がすべてを消してしまったかのように、事件は未解決のまま17年の歳月が流れていく。 そして2015年。元郵便配達員の古い鞄から、17年間届けられなかった1通の手紙が見つかる。 そこには、こう書かれていた。 「私は、美咲、南、そして彩に何が起きたのか知っています」 手紙をきっかけに再び動き出す捜査。座布団の中に隠された日記、古いカセットテープ、稚内へつながる謎の手紙、そして雪深い小屋の床下に眠っていた赤いマフラー。 3人はなぜ消えたのか。 教師・田中浩は何を隠していたのか。 17年間閉ざされていた雪の中の真実が、今、静かに姿を現す。ミステリー|行方不明1.5萬字5 130 -
完結第12話
ETCに残らない白バイ
2003年春、千葉県の高速道路を巡回していた女性白バイ隊員・水島舞が、サービスエリアで忽然と姿を消した。 監視カメラには、彼女が白バイを降りて建物へ入る姿が残されていた。だが、その18分後、白バイに乗って走り去ったのは舞ではなく、ヘルメットで顔を隠した見知らぬ男だった。 舞本人も、白バイも見つからない。料金所の記録にも、ETCログにも、その後のはっきりした足取りは残っていなかった。 結婚を控えていた婚約者、娘の帰りを待ち続ける両親、そして答えを出せないまま止まった捜査。 10年後、古い監視映像を最新技術で解析した時、画面の隅に映っていた“あるもの”が、事件を再び動かし始める。 白いバイクは、どこへ消えたのか。 そして水島舞が最後に見た人物とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 3731 -
完結第11話
雪峠の五発
2006年11月15日、長野県北部。 その年最初の雪が降り始めた高木峠へ、1人の巡査が向かった。展望台に不審な車があるという匿名通報を受け、霧谷慎也は「確認だけ」のつもりでパトカーを走らせる。 だが午後6時15分、現場到着を知らせる無線を最後に、慎也からの連絡は途絶えた。 雪の展望台に残されていたのは、鍵のかかったパトカーと、車内に置かれた制帽と手袋。慎也本人だけが、吹雪の峠から忽然と姿を消していた。 事故なのか、事件なのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、自ら山へ入ったのか。 妻と幼い娘は、答えのないまま13年を過ごすことになる。 そして2019年春。雪解けの斜面から、慎也が持っていた古い懐中電灯が見つかった。 13年間沈黙していた峠が、初めて返した小さな手がかり。 その光の先に隠されていたのは、匿名通報の本当の意味と、雪の下に封じられていた一夜の真実だった。ミステリー|行方不明1.7萬字5 1051 -
完結第13話
5枚で消された妻
1994年4月、長野県の山あいにある古いビジネスホテルで、31歳の女性・高橋美幸が冷たくなって発見された。 部屋には睡眠薬の空箱と酒の瓶。夫との離婚調停を控えていたこともあり、警察は早々に「事件性なし」と判断する。記録はわずか5枚だけ。母のよし子がどれだけ訴えても、娘の死が再び調べられることはなかった。 それから12年。 美幸の夫だった男は別の町で再婚し、真面目な父親として穏やかに暮らしていた。一方、よし子は痛む膝を抱えながら、毎年娘の墓へ通い続ける。 「娘は、自分から死を選ぶような子ではない」 誰にも届かなかったその言葉が、ある夜、古い薬物帳簿に残された一つの名前によって動き出す。 12年前のホテルで、本当は何が起きたのか。 そして、たった5枚の記録が隠していた真実とは――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 443 -
完結第13話
床下の学級日誌
1995年、福岡の小さな離島・相島に、一人の若い女教師が赴任してきた。 藤野理子、26歳。全校児童わずか11人の分校で、子どもたち一人ひとりに寄り添い、島の人々にも少しずつ受け入れられていく。だが彼女は、ある少女の腕に残る不自然な痣に気づいてしまう。 「このまま見過ごすことはできない」 そう決意した夕暮れ、理子は本土へ渡ろうとしていた。しかし、その日を境に彼女は島から姿を消す。 残された荷物、桟橋で見つかったスカーフ、そして口を閉ざした11人の子どもたち。 警察はやがて、理子が自ら島を出た可能性が高いと判断する。けれど、子どもたちは知っていた。 あの日、桟橋で本当に何が起きたのかを。 それから10年後、取り壊される分校の床下から、理子の学級日誌と万年筆が見つかる。封じられていた記憶が、静かに動き出した――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 243