"スズメバチ事故の遺言" 第9話
そのすべてが、琥珀の蜜となって残っているようだった。
幸子はそのも、折桐原へ帰ってくる。
父のは今も残されている。
湯み茶碗も、柱の背比べの傷も、あの頃のままだ。幸子は帰るたびにのを通し、庭のを抜き、そして必ず商の物にち寄る。
棚の蜂蜜の瓶に、そっとをわせる。
「お父さん、ちゃんといしてるよ」
ので、そうつぶやきながら。
桑名はあの件の、無事に定を迎え、刑事の職を退いた。越もまた、勤めた駐所をり、町の片隅で静かな余を送るようになった。
2は折顔をわせ、あの来事についてぽつりぽつりと語りう。
「解決したと言っていいのかな」
越がそう尋ねると、桑名はいつもし考えてから答える。
「真相はらかになった。それは違いない。ただ、誰かが悪者で、その悪者を捕まえてめでたしめでたし、という話じゃなかった。松吉さんと田島さん、あの2がそれぞれの精いっぱいできて、と向きった。そういう話だったんだよ」
越はくうなずく。
そして2は、しばらく黙って空を見げる。
毎、が来るたびに、桐原の町には蝉の声がり注ぐ。
それはかつて松吉が蜂に向かって独り言を言っていた、あのと同じ声だった。
今も暑くなるぞ。
もうしの辛抱だ。
そんなのない声が、今にものどこかから聞こえてきそうだった。
松吉はもういない。
蜂もなくなった。
けれど物の棚には、今も1つの蜂蜜の瓶が輝いている。
そしてその蜜のことを、たまにいしてくれるが確かにいる。
正直にき、静かに逝った1の養蜂のことを。
その最をたった1で見送った、器用な友のことを。
いを経て、ようやく父の本当のいをった娘のことを。
蝉の声は、今もあいにり注いでいる。
桐原のは、いつもと変わらず、静かに巡っていく。
― 完 ―