みかん小説
本棚

"スズメバチ事故の遺言" 第3話

幸子は残すものと処分するものを分けながら、何度もを止めた。そのたびに、父がここで黙々と作業していた姿が浮かんだ。

2目の午

番奥、棚のを片付けていた幸子は、板の1枚がわずかに浮いていることに気づいた。

議にって指をかけると、板は簡単に持ちがった。

そのには、さな空があった。

に作られた隠し所のようなくぼみ。

そこに、古びた缶が置かれていた。

錆びの浮いた菓子缶のようなものだった。

幸子は缶を取りし、埃を払って、そっと蓋をけた。

に入っていたのは、3つのものだった。

1つは、い封筒に入った通の。宛名も差かれておらず、封がされたままだった。

もう1つは、注射器だった。病院で使うような医療用の注射器で、は空だった。針には覆いがされていた。

そして3つ目は、さな切れだった。聞の折り込みちらしの裏に、鉛きされている。

文字は、父の字だった。

そこには、こうかれていた。

「710 松」

幸子はその文字を見つめた。

710

それは父がくなっただった。

「松」は、父の名である松吉を、古い友たちが呼ぶの呼び名だった。まっちゃん、松さん。そう呼ばれていた父の顔が、幸子の胸によみがえった。

なぜ、父のんだ付と呼び名が、に隠されているのか。

広告

なぜ、そこに注射器があるのか。

幸子の胸に、説のつかないが広がっていった。

幸子はけようとした。

けれど、指が止まった。

封を切ってしまえば、8に終わったはずの父のが、別の顔を見せる気がした。蜂に刺された幸な事故。それで納得しようとしてきた過が、もう度目のがってくる。

幸子は缶を抱えたまま、に座り込んだ。

夕暮れのさな窓から斜めに入り、埃がそので静かにっていた。では蛙が鳴いている。

しばらく迷った末、幸子は駐所に相談することにした。

翌朝、彼女は缶を持って駐所を訪ねた。

そこには越巡査がいた。

8、松吉の現に駆けつけた、あの古株の巡査だった。今では60代半ばになり、定かった。髪はくなり、顔にはい皺が刻まれていたが、その目は昔と変わらず穏やかだった。

幸子が缶のを机に並べ、見つかった経緯を話すと、越の表しずつ変わっていった。

彼は注射器をに取り、しばらくじっと見つめた。

それから、い声で言った。

「実はね、幸子さん。お父さんがくなった、私には1つだけ、ずっと引っかかっていたことがあったんです」

幸子は顔をげた。

越はゆっくり話し始めた。

「お父さんは50く蜂を飼ってきただ。蜂のことなら誰よりもよくっていた。

広告

それなのに、あの朝に限って防護網も持っていなかった。蜂の毒に備える薬も持っていなかった。私はそれが、どうしても腑に落ちなかった」

幸子のが膝ので固まった。

越は続けた。

「でも、あのは医師が事故だと言った。審な点もなかった。ご遺族もしんでおられた。私の引っかかりなんて、ただの気のせいかもしれない。そうって、せなかったんです」

彼は注射器をもう度見た。

「けれど、こうして注射器がてくると話は別です。これはただの偶然とはえない」

その言葉に、幸子の胸のはさらにくなった。

越はしばらく考え込んだあと、決したように言った。

「もう度、きちんと調べてもらった方がいいかもしれません。私にはもうきな捜査をかす力はない。でも、当たりがあります」

越がい浮かべていたのは、県警にく勤める刑事、桑名だった。

桑名もまた定を翌に控えたベテラン刑事だった。若い頃から、の見落とすようなさながかりを根気よく拾い集めることで、いくつもの難しい事件を解いてきた。

越とは若い頃、同じ署で机を並べた仲でもあった。

そののうちに、越は桑名へ話を入れた。

8、養蜂の松吉が蜂に刺されてした事故。

今になってから見つかった注射器と、自然なメモ。

越が事を話すと、話の向こうで桑名はしばらく黙っていた。

やがてい声で言った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: