"青いハンカチの花嫁" 第7話
慶子は悪びれる様子もなく、扇子をぱちんと閉じた。
「由美さん、あなたも恩返しなんて古臭いことにこだわるのはやめなさい。健がし嘘をついていたのは悪いけれど、もう結婚式は始まっているのよ」
正社が信じられないという顔で睨みつけた。
「あなたは自分が何を言っているのか分かっているのか。うちの娘を騙しておいて、そのまま結婚を続けろと言うのですか」
それでも慶子は涼しい顔をしていた。
「御恩が誰であろうと、あなたと健の結婚はもう決まったことよ。招待客もこれだけ集まっているの。会社関係者やの方々もいらっしゃる。今さら破談にしたら、お互いのが世からどう見られるか分かっているわよね」
それは、世体と対面を盾にした脅しだった。
「それにね、正さん」
慶子は今度は正社に向き直る。
「あちらの子の男性が本当の恩だとして、それが何だと言うんですか? あんな体ではまともに働くこともできないでしょう。娘さんを幸せにすることなんて到底無理な話です」
俺は唇をく噛みしめた。
それは、この10ずっと世から浴びせられ続けた偏見と本音だった。
「うちの健は体満で健康そのものです。あなたの切な会社を継ぐには、健の方が責任者にふさわしいはずですよ。
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娘さんがこんなお荷物を背負い込むより、うちの息子と結婚する方がずっと幸せになれるじゃありませんか」
慶子は勝ち誇ったように俺を見ろした。
その、苦しい空気を破ったのは、正社の静かな声だった。
「お荷物だと?」
温そうな正社の顔が、かつてないほどのりに満ちていた。
「娘の命を救ってくれた恩に向かって、お荷物とは何事だ」
それは鳴り声ではない。
く、をうような静かなりだった。
慶子と夫はびくっと肩をすくめ、ずさった。
「正さん、どうか落ち着いて……」
「落ち着けるわけがないだろう。私の娘を、私の会社を、何だとっているんだ」
正社はゆっくりちがり、胸のポケットから1枚のを取りした。
それは綴じられた調査報告だった。
「実は由美から健君に違があると相談を受けた、私はのために興信所を使って、君たちの会社の経営状態を調べさせてもらっていた。娘のをする結婚だからな」
その言葉に、夫の顔から完全に血の気が引いた。
「君の会社は額の負債を抱えて倒産寸だそうだな。からの融資も打ち切られ、首が回らない状態だと聞いている。うちの娘との結婚は、その穴埋めをするためだった。違うか」
正社の鋭い指摘に、夫はそのにへたり込んだ。
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親族たちからはりの声が次々とがる。
「最初からお目当てで由美ちゃんを騙したのか」
「恩だと嘘をついたうえに、財産まで奪おうとしていたなんて」
会の空気は完全に、健たちを非難するものに変わっていた。
由美も、義父母となるはずだった2を軽蔑の差しで見つめていた。
「あなたたちがそこまで恐ろしいたちだったなんて。もう顔も見たくありません」
その言葉に、慶子は扇子を取り落としそうになった。
「ゆ、由美さん、誤解よ。私たちはただあなたのことをって……」
「言い訳は聞きたくありません」
由美はきっぱりと言った。
「私がしていたのは、私を命がけで助けてくれた恩です。嘘で塗り固められた健さんではありません。この結婚は、今この瞬をもってに戻させていただきます」
由美の凛とした態度に、俺は子のでさく息をついた。
弓はい。
10、ので声もせずに震えていたあのさな女は、もうどこにもいなかった。
自分のを自分ので守り抜こうとしている。
俺ののに、静かな堵が広がった。
しかし、これで素直に引きがる健ではなかった。
自分の計画がすべて崩れたことを理解した健は、激しいパニックに陥っていた。
父親の会社は倒産寸。
由美の実の財産もに入らない。
そればかりか、勢の親族や会社関係者ので、自分の嘘と借が完全に暴かれてしまった。
健の目は血り、呼吸は異常なほど荒くなっていた。