"地図にない赤札の家" 第3話
慎にハンドルを切れば、何とかむことはできる。
「こういうにも慣れたよな」
田は方を見据えたまま呟いた。
取材を通して、2は何度もや廃のような所をってきた。舗装が割れた、倒を避けながらむ、崖沿いの。普通のドライバーなら引き返すような所にも、番組のために何度も入ってきた。
経験があるからこそ、田は落ち着いてをめていた。
それでも、今回は何かが違った。
があまりにもい。
目までの距がつかめない。
引き返そうにも、Uターンできそうな所がまったく見当たらない。
「この先に、本当にあるんですかね」
辺がを隠せない声で言った。
「引き返すにも所がないしな。けるところまでってみよう」
田はそう答えたが、自分でも声がしくなっているのが分かった。
はひたすら奥へ続いていた。
同じような々。
同じようなカーブ。
同じような沢の音。
内には、エンジン音とタイヤが落ち葉を踏む音だけが響いている。
の覚が曖昧になっていった。
どれほどっただろうか。計を見ると、細いに入ってからすでに1くが経っていた。
「……ったよりいな」
田がさく呟いた、辺が急に方を指さした。
「あ、あれじゃないですか?」
々の隙に、建物らしきものが見えた。
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田はハンドルを握るに力を込め、ゆっくりをめた。
「それっぽいな」
いをんできた緊張がしだけ解け、田は堵の息を吐いた。
やがては、けた所にた。
の先は登り坂になっており、その先に母とわれる古いが建っていた。周囲は々に覆われている。まさに奥の軒だった。
田はをめ、エンジンを切った。
にると、空気はひどくたかった。の静けさが肌にまとわりつくようだった。くで鳥が鳴くこともなく、がの枝を揺らす音だけが聞こえる。
「……静かですね」
辺がカメラを回しながら呟いた。
田はきく背伸びをし、辺りを見回した。
母は築50、いや、もっと古いかもしれない。昔ながらの農といった造りだったが、かつては派だっただろう瓦根はところどころ欠け、樋も歪んでいる。壁は黒ずみ、窓枠は古く、全体がひどくみすぼらしく見えた。
くには畑だったらしい所があった。けれど今は雑がい茂り、畝の跡だけが辛うじて残っている。
敷内には、写真で見たもう1つのきな建物もあった。
づいて見ると、それは倉庫というより、豚や牛を飼っていた畜舎のようだった。母よりもさらに古びており、根は部が沈み、壁板も朽ちていた。今にも崩れそうな姿で、森のに沈黙している。
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「の集落のが言っていたように、誰もんでいないんですかね」
辺がそう言った。
田もそうった。
荒れ果てた敷。
伸び放題の。
活のない窓。
ここにがんでいるとは考えにくかった。
それでも、ここまで来た以、確認しないわけにはいかない。
2は母へ向かって歩きした。
母のにった田は、く息を吸った。
「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか」
のに、田の声がきく響いた。
しかし返事はなかった。
声は虚しく反響し、々のに吸い込まれていく。しばらく待っても、の気配はない。玄関の引き戸も、窓も、静まり返っていた。
「誰もいなさそうですね」
辺がカメラを構えたまま言った。
「うん。空きかもしれないな。まあ、せっかくここまで来たし、もうし撮しておくか」
辺はすでにからずっとカメラを回し続けていた。目が無だったとしても、番組のコンセプト通りの軒であることは違いない。素材としては使えるかもしれない。
田は玄関からへ回った。
の観、畑跡、朽ちかけた畜舎。カメラはその全てをゆっくり捉えていく。辺は元に気をつけながら、黙々と撮していた。
そのだった。
辺が急にきを止めた。
「田さん」
「どうした?」
辺は声を潜め、の窓を指さした。
田が目を向けると、そこにがあった。
作業を着た60代くらいの男が、窓の内側からこちらを見ていた。
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