"十年介護を捨てた日" 第5話
必なものだけをスーツケースに入れる。
無駄なものは持たなかった。
6。
勝が寝からてきた。
髪は乱れ、まだ眠そうな顔をしていた。
そして、いつものように言った。
「おい、朝飯は?」
私はスーツケースのファスナーを閉めた。
「ありません」
勝は眉をひそめた。
「母のおむつは?」
「自分でどうぞ」
勝の顔が変わった。
「何を言ってるんだ」
私はまっすぐ勝を見た。
「昨、婚すると言いましたよね。なら私はもう嫁ではありません。介護の義務もありません」
勝はをけたまま固まった。
「ちょっと待て。母の介護はどうするんだ」
「由美子さんにお願いしたらどうですか? 若くてるい方なんでしょう」
勝は何か言い返そうとしたが、言葉がなかった。
私はそのに、介護用品業者へ話をかけた。
「今末で介護ベッドと子のレンタルを解約します」
業者の担当者は驚いたようだった。
「まだご利用では……」
「名義の私が解約すると言っています」
次に、訪問護ステーションにも連絡した。
「井です。今から訪問護の連絡先を夫の勝に変更してください。私は介護を終します」
話の護師は配そうに何度も事を聞いてくれた。
私はく答えた。
「婚することになりました。今の対応は実子である勝にお願いします」
8。
私はスーツケースを持って玄関にった。
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勝は青ざめた顔で追いかけてきた。
「待て。母はまだベッドで……」
「あなたの母親でしょう。自分で面倒を見てください」
「由美子に会う約束があるんだ」
「キャンセルすればいいでしょう。これからは毎介護ですよ」
私は靴を履いた。
最に振り返り、鞄から1枚の封筒を取りした。
「それから、このの500万円は返してもらいます。弁護士を通じて請求します」
勝の顔が引きつった。
「なんだと」
「振込記録も残っています。あなたの暴言も録音済みです。無料の介護士発言も、介護員発言も、全部」
勝は完全に黙り込んだ。
私は玄関のドアをけた。
「さようなら。10、お疲れ様でした」
背で勝が何か鳴っていた。
だが、もう振り返らなかった。
タクシーに乗り込むと、朝のが窓から差し込んできた。
10閉じ込められていた所から、私はようやくていった。
実に着いた、母は玄関ので待っていた。
88歳になった母は、昔よりさくなっていた。
それでも背筋を伸ばし、私の顔を見るなり両腕を広げた。
「静、よく帰ってきたね」
その声を聞いた瞬、私は張りつめていたものが崩れそうになった。
「お母さん……」
「もう、あんな男のところに1秒だっていることないよ」
母のは温かかった。
私はそのを握り返し、ようやく自分が全な所に来たのだとじた。
居に荷物を置いた直、スマートフォンが鳴った。
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画面には勝の名が表示されている。
私はし迷ったが、話にた。
「もしもし」
勝の鳴り声がび込んできた。
「おい、今すぐ戻ってこい。母が変なことになってる」
私は子に座ったまま、静かに聞いた。
「何があったんですか」
「おむつから漏れて、ベッドが汚れた。どうすればいいんだ」
計を見ると、まだ朝9だった。
私がをてから、たった3。
もう音をげている。
「おむつ交換の仕方はっているでしょう。10、毎私がやっていたのを見ていたはずです」
「見てるだけと実際にやるのは違う。臭いし、汚いし……」
私は目を閉じた。
何度も聞いた言葉だった。
「昨、汚い仕事は嫁がやるものだと言っていましたよね」
話の向こうで勝が黙った。
「とにかく戻ってこい。命令だ」
「命令?」
私は静かに聞き返した。
「もう夫婦ではないんですから、命令される筋いはありません」
そう言って話を切った。
すぐにまた着信が来た。
私はなかった。
5分で10回。
10分で20回。
着信履歴だけが増えていく。
母が湯みを持って、私のに座った。
「なくていい」
「うん」
私はスマートフォンを伏せた。
久しぶりにむ実のお茶は、し濃くて、懐かしいがした。
午2。
勝からメッセージが届いた。
「母の昼、どうすればいい? 何もべてくれない」
私はし考えてから返信した。
「流の作り方はキッチンにメモを残してあります。
ミキサーで野菜をペースト状にして、とろみをつけて、ずつゆっくりべさせてください。
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