"レモングラスの下の悪臭" 第4話
「転んで、どうして両腕に同じような痣ができるんですか」
私はもう落ち着いた声を保てなかった。
佳さんは狂ったように首を振った。私がさらに尋ねようとした瞬、彼女は私の首をく掴んだ。氷のようにたいが震えていた。
「裕には言わないでおくれ」
「どうしてですか」
「ったら、また配して……注だって、母さんを叱るから」
その言葉は見、息子をう母親の言葉のようだった。けれど、佳さんの目には、極度の恐怖が宿っていた。から息子をう母親の目ではなかった。
その、会社で私はミスばかりした。のでは、義母の痩せた腕に刻まれた痣が何度も浮かんだ。
夜、お伝いさんが帰り、佳さんが薬をんで部で横になった、私は台所で裕さんに切りした。
「今朝、佳さんの腕に痣がたくさんあったわ」
卓を拭いていた彼のが、ほんの瞬止まった。
「痣?」
「両腕に。転んだとおっしゃっていたけど、どう見ても転んでできたものには見えなかった」
彼は数秒黙った、く息をついた。
「昨の夜、母さんがベランダにようとしたんだ」
彼はとても滑らかに言葉を続けた。
「最、物忘れが激しいのは君もっているだろう。を滑らせたら危ないとって、とっさにく引いた。分そのに力が入りすぎたんだ」
「どうして私に言わなかったの?」
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「言ってどうするんだ」
彼の顔には疲れたが浮かんでいた。
「僕は仕事も母さんの介護もしなければならない。たまたまの失敗でできた痣を、どうしてそんなにげさにするんだ」
その答えは理だった。ほかのが聞けば、私の方が神経質だとうかもしれない。
ちょうどその、親戚の叔母がみかんを持って台所に入ってきた。私たちの会話を聞くと、すぐに言った。
「を取ったお母さんが転ばないように息子が掴んだんでしょう。それが何だっていうの。お嫁さんなら、夫が変ないをしないよう助けてあげなさい」
私は台所の真んで凍りついた。
のは疑問だらけなのに、周りのは皆、私が騒ぎすぎだと言っている。
その夜、裕さんはベッドで私に背を向けたまま尋ねた。
「僕にっているのか?」
「ただ、佳さんが配なの」
「僕がいるじゃないか。考えすぎるな」
その言葉でするはずだった。
けれど私は、結婚して初めて気づいた。
優しく聞こえる言葉ほど、の息を詰まらせることがあるのだと。
痣を見て以来、私は平静ではいられなかった。それでも仕事にき、事を作り、夫と普通の会話を交わした。表面が穏やかであるほど、ののは複雑に絡まっていった。
裕さんはさらに几帳面になった。毎朝、何にをませるか、何にお粥をべさせるか、何に薬をませるかをにき、義母の部のテーブルに置いた。
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ある、私はタオルを取りやすいようにベッドの側へ移した。夜、帰宅した裕さんはすぐに尋ねた。
「君が母さんのタオルをかしたのか」
「ええ。あちらの方が取りやすいとって」
彼はタオルを瞥し、私を見た。
「母さんのものは元の所に戻しておいてくれ。お寄りは物の位置が変わるとになるものだから」
もっともな話だった。けれど私は、この部のコップ1つ、スプーン1つ、薬瓶1つまで、彼が決めた位置から1センチもずれてはならないようにじ始めていた。
曜の夜、裕さんは急な話があると言い、台所にさな盆を置いた。盆のには、いが入った袋、ステンレスのスプーン、ガラスのコップ、お湯の入ったポットがあった。
「今夜は君が母さんの薬を溶いてあげてくれないか。この袋を全部入れて、よくかき混ぜて、きっかり9にませて」
私はの袋を見つめた。
「毎こうしてまないといけないの?」
「うん。効果を得るためには、根気よく用し続ける必があるんだ」
彼が庭へていくと、私は盆のに1残された。
その、にふと考えがよぎった。
もし量をし減らしたらどうなるのだろう。
私は無鉄砲なではない。薬に勝にをすようなでもない。けれど、匂い、眠り、痣、そして義母の恐怖が、私を追い詰めていた。
私は震えるで袋をけ、の半分ほどをティッシュに取り分け、丸めてゴミ箱の奥へ隠した。
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