"消された妻の通院日" 第5話
次の診察の夜、秀は封筒を探した。
いつもなら台のに用されているはずの保険証、薬の帳、の受付をいたメモ。
けれど、そこには何もなかった。
幸子は居で座っていた。元に本はあったが、ページはかれていない。
「封筒は?」
秀が聞いた。
幸子は顔をげた。
「今度から、ご自分で用してみてください」
声はくなかった。
ただ、いつもを止めると同じ調子だった。
「次の診察は、おでってみてください」
翌朝、秀はで病院へかけた。
受付で番号札を取り忘れ、窓に並んでから気づいて列をれた。保険証と診察券を逆の順番でし、検査の部が何階か分からず、案内板のでしばらくち止まった。
そのたびに、今までは隣からさな声がていたのだと気づいた。
「次はあちらです」
「筒、ここにありますよ」
「薬の帳も緒にしてください」
幸子の声がないだけで、病院はこんなにも広く、たくじるのだとった。
売でたいを買った。
ののペットボトルは、ったよりたかった。
幸子はいつも筒を用していた。
温かいを入れて、蓋を閉め、コートのポケットに入れてくれた。
それを当たりだとっていた自分が、し恥ずかしかった。
診察を終えてに戻ると、秀は蔵庫の横のカレンダーのにった。
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来のページがかれている。
赤い丸には「秀 診察」とあった。
その隣には、消されていない鉛の丸があった。
「幸子 検査」
今度は消されていなかった。
秀は2つの丸を見つめた。
やがて棚から赤いペンを取った。自分の丸のに、保険証、薬の帳、、とく。
それから幸子の丸に向かって、ペンを持ったままし止まった。
何をけばいいのか、すぐには分からなかった。
そこに自分の字を入れるのが、今はまだ違う気がした。
秀はかずに、ペンを棚に戻した。
幸子の丸には、幸子の字が残っていた。
さく、く、それでも消されずに残っていた。
台所では、幸子が鍋の蓋を持ちげていた。
秀はその背を見た。
今度は何も急かさなかった。
何も決めつけなかった。
ただ、ゆっくりづいて、台所の端にを置いた。
「幸子」
声をかけるに、秀は度息を吸った。
言葉を軽くしないためだった。
「今度の検査、俺も緒にっていいか」
幸子はすぐには振り返らなかった。
鍋の湯気が、静かにがっている。
やがて幸子はをめ、布巾でを拭いた。
それから、ほんのしだけ顔を向けた。
「げさだって、言わない?」
秀は答えられなかった。
胸の奥が詰まった。
けれど、今度は黙って逃げなかった。
「言わない」
幸子はしばらく秀を見ていた。
許した顔ではなかった。
った顔でもなかった。
ただ、いしまい込んできた疲れを、しだけへしたような顔だった。
「じゃあ、受付の所だけ確認しておいてください」
その声は静かだった。
秀はうなずいた。
初めて、自分でメモを取るために、引きしからをした。
カレンダーの赤い丸と鉛の丸は、並んで残っていた。
片方だけが濃くなることも、片方だけが消されることもなく。
朝の台所に、噌汁の湯気が戻っていた。
― 完 ―
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