みかん小説
本棚

"消された妻の通院日" 第2話

奥には、さな薬の袋が押し込まれていた。の錠剤は、ほとんどつかずのままだ。

袋の表には、患者の名が印字されていた。

「森田幸子」

は息を止めた。

引きしを静かに閉めた。音がきく聞こえないように、最だけ指で押さえた。

卓には、幸子の茶碗が残っていた。

米粒がしだけ残り、箸の先もほとんど汚れていない。

はその茶碗を見て、さっきの声をした。

し休めば丈夫よ」

その言葉のさだけが、朝の台所に妙にはっきり残っていた。

、優は野菜を届けるついでにと言いながら、また台所にがった。

幸子は何も聞かなかった。ただ布巾を渡して、穏やかに言った。

「そこの棚、拭いてもらえる?」

は棚を拭き、器をね、洗い桶に残っていた茶碗を2つすすいで切りに置いた。それから、蔵庫の横のカレンダーのった。

の名は赤いペンできくかれていた。

丸も太く、字もきい。

付のすぐには、朝ごはんのの薬、血圧の帳、保険証、診察券、筒、と続けていてある。

全部、幸子の字だった。

線をへ移すと、同じの別の付にい丸があった。

でつけた丸だった。

付だけが残り、名も病院の名もない。

「お義母さん、これは何のですか?」

幸子は器棚ので、し止めた。

広告

「消し忘れただけよ」

それだけ言って、また皿をね始めた。

けれど、棚の引きしを閉めるに、幸子の指が度だけカレンダーに触れた。

の丸のを軽くなぞる。

まだそこにあるか確かめるようなきだった。

は、見てはいけないさな図を見た気がした。

しばらくして、優は引きしを理しながら、奥にまた薬の袋を見つけた。薬は秀のもののように、卓のにはされていない。輪ゴムの箱と使いかけの布巾のに押し込まれていた。

薬をもらったは、3ヶだった。

袋のいている。

けれど、はほとんどつかずのままだった。

はその袋を元の所へ戻した。きれいに戻しすぎると、触れたことが分かる気がして、しだけ斜めにした。

さらに奥には、の封筒があった。

い封筒とは違う、古く、角の柔らかい封筒だった。

表には、幸子の字でさく名かれている。

「幸子」

けなかった。

ただ、封筒のからの端がしだけ見えた。

そこには、病院で見るような文字があり、文字だけ読めた。

「紹」

紹介状かもしれない。

そうった瞬、優の指先がたくなった。

の封筒は卓のに堂々と置かれている。

けれど幸子の封筒は、引きしの奥で息を潜めている。

その違いが、優にはひどくく見えた。

広告

の向こうで、秀話をかけていた。

は息子の健太だった。

「母さんは最、病院のことばかり気にしてるんだよ」

があった。

受話器の向こうから、健太の声が漏れた。

「母さんは丈夫?」

はすぐに答えた。

丈夫って言うから、本当に丈夫なんだとってた」

それから、いつものように続けた。

だから仕方ないよ。あまり無理しないように言っておく」

それだけだった。

どこが痛いのか。

いつからなのか。

誰も聞かなかった。

幸子は台所にいた。聞こえていたはずなのに、振り返らなかった。ただ、鍋のめた。

はカレンダーへ、もう度目を向けた。

赤い丸は濃く、の裏にまでしインクが滲んでいる。けれど鉛の丸は、指でこすれば消えてしまいそうだった。

古いのカレンダーがなっていることに気づき、優はそっと持ちげた。

裏側に、消しゴムで擦られた跡があった。

付の辺りに、かすかな黒いのようなものが残っている。にかざすと、く字の跡が見えた。

「私の」

その先は消えていた。

は息を止めた。

何がかれていたのか読めない。読めないことが、かえってかった。

もう1枚めくると、先にも同じような跡があった。そのにも、付の端に消しゴムで擦ったようない荒れが残っていた。

いては消した丸が、いくつもあった。

どれも名は残っていない。

ただ、の表面だけがし荒れていて、そこに何かが度はあったことだけをらせていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: