"三人だけの家族写真と、消された私" 第13話
嵐が過ぎり、静かで平穏な常が戻ってきた。
結が百を迎える、おい初めの期がづいた頃。 休の朝、拓也がコーヒーカップを置きながら、し緊張した面持ちで私に切りした。
「彩。……もう度、写真を撮りにかないか」 「写真?」 「うん。野写真館に、もう度予約を入れたいんだ。今度は、親戚に配るためのお層なアルバムじゃなくていい。俺たちのおで、俺たちのための、普通の記写真を撮ってもらえないかなってって」
拓也は私の顔を伺うように見つめていた。その瞳には、かつての逃げ腰なはなく、真摯な願いが宿っていた。
私は、ベビーラックのでをバタバタと元気にかしている結を見た。 首がすっかり座り、あやすと声をてて笑うようになった娘。 この子の「今」を、きちんとした形で残したいという気持ちは、私のにもずっとあった。
「……そうね。きましょう」
私が微笑んで頷くと、拓也は底ほっとしたように顔を綻ばせた。
翌週の曜、私たちは再び野写真館の扉を押した。 カランカランとドアベルが鳴り、奥から現れた野さんは、私たちの姿を見るなり、穏やかな笑みを浮かべて迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
事の打ちわせで、野さんは回の事を切蒸し返さず、ただプロとして淡々と、けれど温かく対応してくれた。
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スタジオに入ると、柔らかいアンバーの照がセットされていた。 回のような派な具や豪華な背景幕はなく、シンプルな無のバックペーパーが静かに垂らされている。
「では、お母様が子の央にお掛けください。お嬢様を抱っこしていただいて」
野さんの指示に従い、私はスタジオ央に置かれた製の子に腰をろした。 腕のに結を抱き寄せる。抱っこ紐をした結は、いレースのセレモニードレスにを包み、見慣れない材を議そうに見つめていた。 拓也が私のすぐ隣にち、私の肩にそっとを添える。
「ご主、しだけお母様の方へ寄ってください。はい、いいですね。お嬢様、カメラの方を見られるかなー」
野さんがさなガラガラを鳴らすと、結がパッと黒い瞳をカメラのレンズに向けた。 カシャリ、と静かなシャッター音がスタジオに響く。
何枚かシャッターが切られた、野さんがファインダーから顔をげ、満そうに頷いた。
「素らしいですね。お母様も、ご主も、とても自然でいい表をされています」
撮の、材の調をしている野さんの背を見ながら、隣にっていた拓也がふと声を落として私に囁いた。
「……なぁ、彩」 「ん?」 「母さんにも……もう枚、別の会に声をかけた方がよかったのかな。
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結に会いたがってるのは、本当だしさ」
拓也の言葉に、迷いや未練のようなさはなかった。ただ、の息子として、母親というを完全に切り捨てることへの抹の寂しさが、そこには含まれていた。
私は腕ので、私の指をさなでぎゅっと握りしめている結を見つめた。 義母を許さないと決めたわけではない。いつか、義母が自分自の過ちを認め、適切な距を保てるが来れば、孫の顔を見せるもあるかもしれない。 けれど――。
「今は、私たちだけで撮りましょう」
私は顔をげ、夫の目を見て静かに言った。
「誰かの嫌を取るためでもなく、誰かに気を遣って譲るためでもなく。まずは、このを作っていく私たちの姿を、番最初に残しておきたいの」
拓也は私の言葉をじっと受け止め、やがてさく、けれど力く頷いた。
「そうだな。分かった」
撮が終わり、私たちは野さんにお礼を言って写真館をにした。 のく澄んだ青空の、がよく頬を撫でていた。
それから週。 自宅に、野写真館から冊のいフォトアルバムが届いた。 豪華な箔押しも、袈裟なハードカバーもない、シンプルで触りの良い布張りのアルバムだった。
結をお昼寝させた、リビングのテーブルで、拓也とで並んで包みをけた。
表をめくると、最初の見きに、あの撮した枚の写真がきくレイアウトされていた。
央の子に座り、娘を切そうに抱いて穏やかに微笑む私。 その隣で、し照れくさそうに、けれど誇らしげに微笑みながら族を支える拓也。 そして、私の腕ので、まん丸い瞳を輝かせてを見つめている結。
そこには、誰かに慮して端に追いやられた者も、見栄のために誇張された主役もいなかった。 ただ、互いを尊しい、これから共にきていくと決めたの姿が、ありのままののに収まっていた。
写真のには、控えめなフォントで、い文が添えられていた。
『まれてきてくれて、ありがとう。』
私は指先で、写真のの結のさな頬をそっとなぞった。 産の痛みと疲労ので、尊厳を奪われかけ、たいに膝をつきそうになったあの々の記憶が、胸の奥をかすめて通り過ぎていく。
けれど、もう涙はなかった。 私は自分のでち、自分の志で、娘の隣にあるべき母親の居所を守り抜いたのだ。
族写真というものは、誰がおをしたかで誰が族かを決めるものではない。 互いを対等なとして尊し、守るべきものを守る覚悟を持った者たちが、自らの志で紡ぎしていくものなのだと、私はようやくった。