"三十周年に施設へ捨てられた妻と予約主の息子" 第17話
亮太が、濡れた顔をげた。
「私はね、あなたを産んだことを悔はしていない。のことも、今でもいとっているわ。……でも、度失った信頼は、言葉つで元には戻らないの」
「母さん……」
「私はあなたのお母さんだけれど、もうあなたのの尻拭いをする便利な具には戻らない。自分の活は、自分の稼ぎと誠で守りなさい。美咲さんとを度と裏切らないこと。それが、あなたが私に対してできる唯の償いよ」
亮太は、震えるで目元を拭い、何度も、何度も頷いた。
「……わかった。母さん、体、事にしてね」
「あなたもね」
それだけを交わして、私は歩きした。 息子がろから追いかけてくる気配は、もうなかった。
親子の縁を完全に切ることはできない。 けれど、かつてのような「無条件の甘えと搾取」が許される関係には、度と戻らない。 適切な距と、徹な境界線。 それが、私たちがこれからきていくための、しい形だった。
千葉の沿いにある、さな町に部を借りた。
築の、当たりのいいLDKのマンション。 向きのベランダからは、くに青いが帯のように見えた。
部のには、最限の具しかない。 スーパーの鮮魚コーナーの仕事はそのまま続けている。 の経験を買われ、今ではパートリーダーとして輩の指導も任されるようになった。
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毎の料と、分割してもらった財産分与。 贅沢はできないけれど、誰の顔を窺うこともなく、自分ので使いを決められるおがある。
朝起きて、自分のためだけに湯を沸かし、煎りの珈琲を淹れる。 窓をけると、潮のりを微かに含んだが、部のを通り抜けていく。 、度も吸ったことのない、澄み切った空気だった。
今は、スーパーの休暇を使って、の休みを取っていた。
ずっと、きたかった所があった。
、結婚したばかりの頃。 夫に「いつかで、の見える静かな宿に泊まりにこう」と言われていた。 けれど、息子の受験があり、宅ローンがあり、々の事に追われ、その約束は、度も果たされることはなかった。
あの周の、夫が買ってきた粗末なガーベラの包みの隙に、辺のレストランの広告の切れ端が挟まっていたのを、私はからった。 夫はあの記、私をレストランに連れてく気など最初からなく、私を施設に置きりにしたそので、織さんとへドライブにく予定だったのだ。
でも、もうどうでもよかった。
誰かに連れてってもらう必なんて、最初からなかったのだ。
に揺られ、総半島の端にある、さな辺の温泉宿にチェックインした。
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フロントの男性スタッフが、予約カードを確認しながら笑顔で尋ねてきた。
「佐伯様ですね。本は、お様でのご宿泊でよろしいでしょうか?」
「はい。です」
迷いなく答えた自分の声が、によかった。
「かしこまりました。どうぞ、ごゆっくり羽を伸ばしてくださいね」
案内された部は、畳の匂いがよいだった。 広縁のきなガラス窓の向こうに、果てしなく広がる太平が見渡せた。
浴に着替え、窓辺の子にく腰掛ける。 沈みゆく夕が、波の穂を茜に染めげていく。 寄せては返す波の音だけが、静かに部を満たしていた。
机ののスマートフォンが、く震えた。
画面を見ると、美咲さんからのメッセージだった。 枚の写真が添付されている。
くと、が幼稚園のお絵描き帳に描いたクレヨンの絵だった。 画用の真んに、パパと、ママと、。 そして、しれた辺の青い波の横に、さく、けれど満面の笑顔を浮かべたおばあちゃんの姿が描かれていた。 おばあちゃんののには、ピンクの角根の、さなおが描かれている。
写真のに、美咲さんの言葉が添えられていた。
『が、「ばあばのおうち、が見えてすごく綺麗なんだよ」って自げに描いていました。 お義母さん、落ち着いたら、と緒に遊びにかせてくださいね』
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
私は画面を見つめ、しだけ目尻を緩めた。 そして、い返信を打った。
『ありがとう。いつでも待っているわ』
送信ボタンを押し、スマートフォンを机のに伏せた。
ちがり、窓をしだけける。 夜の帳がり始めたから、ひんやりとしたよい潮が吹き込んできた。
、私は誰かの妻になった。 母になり、主婦になり、自分というの輪郭を削りながら、族というを守ってきた。
けれど、今。 の今、私はようやく。
誰の持ち物でもない、自分自ののになれた気がした。