"妻の失踪から90日、誰かが場所代を払っている" 第18話
……私が番信頼するはずの夫が、私の方をしてくれないことだった。私が必で集めたSOSを、そのまま加害者に差ししてしまう無神経さだったのよ」
妻のきな瞳から、涙は滴もこぼれなかった。 泣くための涙は、あの暗い部で、とっくに枯れ果てていたのだ。
「ごめん」
私のから漏れたのは、あまりにもっぺらで、無力な文字だった。
「すまなかった、里奈。俺が……俺が全部、違ってた。おを追い詰めて、獄に突き落としたのは、俺だ」
テーブルに額がつきそうなほど、くをげた。
妻は、しばらく何も言わなかった。 ただ、静かな呼吸の音だけが聞こえていた。
やがて、から、静かな声がってきた。
「……うん。聞いたよ」
私は顔をげた。
妻の顔には、りも、みもなかった。 だが――「許す」という言葉も、そこにはしなかった。
ただ、私の謝罪を「報」として受け取った。 それだけだった。
「あの……」
私は掠れた声で尋ねた。
「あの、シルバーのは……どうしたんだ? 127番の駐にあった、あのは」
妻はふっと目を細め、さく息を吐いた。
「倉先輩に返したわ。昨、静岡まで運転して持ってったの。……駐の解約続きも、今朝、産で全部終わらせてきた」
の芯が、え切っていく。
「……解約したのか」
「ええ。もう、あのも、あの所も必ないから」
妻は静かにバッグから、通の類を取りした。
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緑の枠線が印刷された、見慣れたA4の用。
『婚届』
妻の署名押印欄には、すでに几帳面な妻の跡で、名と、本籍が記入されていた。
「これにサインして、しておいてくれる? 財産分与も慰謝料もいらないわ。具も、貯も、全部あなたにあげる。……ただ、私の戸籍から、藤井の名を抜いてほしいの」
テーブルのに置かれたそのは、羽のように軽そうに見えて、私のを押し潰すほどかった。
もう、何のもないことは分かっていた。 やり直したいとか、もう度チャンスをくれなどとにすれば、それはただの暴力だ。
私はコートの内ポケットから万を取りした。 が震えて、キャップをすのに取った。
『藤井 俊介』
自分の名をき、印鑑を押す。 朱肉がに染み込んでいくのを見つめながら、の歳が、音もなく散していくのをじていた。
「……ありがとう」
妻は婚届をに取り、丁寧につ折りに配してバッグへしまった。
そして、伝票を自分の元へ引き寄せた。
「いい、俺が払う」
私がを伸ばそうとすると、妻は首を横に振った。
「自分の分は自分で払うわ。もう、だから」
妻は伝票を掴み、ちがった。 ベージュのトレンチコートの裾をえ、最に度だけ、私を見つめた。
「俊介さん」
「……うん」
「お義母さんや直さんのためじゃなくて……これからは、自分ののためにきなさいよ」
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妻はそれだけ言うと、さくをげた。
そして、度も振り返ることなく、レジへと歩いてった。
自ドアがき、たい潮がラウンジのに吹き込んできた。 妻の細い背が、駅へと続く混みのに消えていくのを、私はただ座ったまま見つめていた。
追いかけることはできなかった。 ちがることすら、できなかった。
テーブルのには、妻がをつけたおのグラスだけが残されていた。 氷がさく溶けて、カランと音をてる。
か、私は必になって妻を探し続けた。 千葉の果てまでをらせ、127番の庫を見つけ、妻の痕跡を追いかけた。
だが、私は最初から何も分かっていなかったのだ。
を探しすことと。 そのが、自分の元へ戻りたいとうこと。
そのつのには、決して埋めることのできない、くてたいが横たわっていた。
私はめきったコーヒーをみ干し、誰もいない向かいの席を、もう度だけ見つめた。 窓ののは、の気配を濃くしながら、どこまでも静かに波打っていた。