"無償の介護係だった嫁" 第1話
【01】「退院したのに、母さんのベッドがない」
「おい真奈美! 母さんのベッドはどこへやったんだよ!」
昼休みのオフィスビルの非常階段で、に当てたスマホから健司の鳴り声が突き刺さった。
反響するコンクリートの壁の向こうから、荒い息遣いと、おろおろと狼狽える義母・のか細い声が微かに漏れ聞こえてくる。
「健司……私の、あのボタンで起きがるベッドはどこなの……?」
健司は今朝番で、腿骨骨折の術を終えた義母を迎えに民病院へったはずだった。
退院の続きを済ませ、タクシーで自宅のマンションまで連れ帰り、リビングの扉をけた――その瞬の景が、私にはに取るように分かった。
「……部を片付けただけよ」
私はすりに置いた指先を見つめながら、努めて平坦な声で答えた。
「片付けただと!? ふざけるな! 介護ベッドだけじゃない、子も、ポータブルトイレも、呂の吸盤すりも、薬を入れてたワゴンも全部ねえぞ! リビングがすっからかんじゃないか! 母さんをどこに寝かせりゃいいんだよ!」
健司の声は、受話器が割れんばかりに震えていた。
無理もない。
今朝まで、築のわがのリビングは、半分病のような異様な空だった。
窓際には幅メートルを超えるモーターの介護ベッド。
壁にはずらりと並んだパンツや尿取りパッドの段ボール。
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には転倒防止用のゴムマットが敷き詰められ、部全体に消毒液と湿布のツンとした匂いが染みついていた。
、私がその所で、義母の排泄を受け止め、事を運び、夜に何度も起きて体勢を変え続けてきた証拠だった。
それが今、何ひとつ残っていない。
私が朝のに業者を呼び、すべてトラックに積み込ませたからだ。
「捨てたわけじゃないわ」
「じゃあどこへやったんだよ!」
「由さんのよ」
瞬、話の向こうが静まり返った。
健司が息を呑む音が、スピーカー越しに鼓膜を叩く。
「……は? 由の? なんで妹のなんだよ」
「午に、向こうのリビングに設置してもらったわ。今夜からお義母さんは、由さんので暮らすの」
「お、がおかしくなったのか!?」
健司の号が再び爆発した。
「母さんはうちで暮らすって決まってただろ! 退院したらまたおが面倒を見るって、ずっとそうしてきたじゃないか! なんで勝に由のところに荷物を送りつけてるんだよ!」
私は首の計に目を落とした。
昼休みが終わるまで、あと分。
、私のは常に「義母のデイサービスの帰宅」や「薬の処方」に支配され、自分の計を見る余裕など度もなかった。
「勝に決めたわけじゃないわよ、健司さん」
私は息を吸い込み、え切った階段の踊りで、はっきりと告げた。
「あの類に、そういてあったからよ」