"出来が良すぎるという理由" 第17話
失敗の所権
騒が収束してから、かが過ぎた。
の気がを包み込む。
規事業発本部のフロアの角に、私のしいデスクが用されていた。
プロジェクト名は『RE:NODE(リノード)』。
ヤマト品との実証実験に向けた発スケジュールが、ホワイトボードを埋め尽くしている。
私と黒澤の関係は、あのを境に劇に良くなったわけではなかった。
相変わらず、第制作部のフロアですれ違っても、黒澤は軽く顎を引くだけで、親しげに声をかけてくることはない。
ドラマのように、師弟が肩を組んで美酒に酔いしれるような結末は、現実のオフィスにはしなかった。
ある曜の夕方、私は制作部のフロアへち寄った。
ヤマト品との最終契約に添付する、過の特約条項の確認印をもらうためだ。
黒澤は自席で、相変わらず積みになった別案件の管理表に赤ペンを入れていた。
「黒澤さん、これ、確認をお願いします」
私が類を差しすと、黒澤は鏡を押しげ、無言で類の末尾に目を通した。
そこには、約束通り、プロジェクトの源流として葵、黒澤誠司、神悠斗の名が並んだ沿革図が印刷されていた。
黒澤は引きしから認印を取りすと、自分の名の横にトンと静かに押した。
「これでいい」
「ありがとうございます。
広告
あの……黒澤さん」
「なんだ」
「来週の発キックオフ、アドバイザーとして席だけでも空けてあるんですが」
黒澤は赤ペンのキャップをカチリと閉め、淡に私を見げた。
「かない」
「でも、運用フェーズのリスク管理については、黒澤さんの目がまだ必です」
「神」
黒澤は子の背もたれに寄りかかり、溜息をついた。
「柄を分けないと言ったはずだ。柄を分けないということは、も分けないということだ。俺がアドバイザーとして名を置けば、おは無識に俺の経験に甘える。そして失敗した、『黒澤さんの指示だった』とので言い訳を探す」
黒澤の細い指が、机のの類をトンと叩いた。
「成功したら、百パーセントおの柄だ。だが、事業がクラッシュして赤字をしたら、そのはすべてのをで被れ。会社から格され、ボーナスをカットされ、周囲から無能の烙印を押される恐怖を、おで引き受けろ」
厳しい言葉だった。
だが、その言葉の裏側に、黒澤がかけてようやくに入れた「プロフェッショナルとしての覚悟」があることを、今の私には理解できた。
「……分かりました。全部、私が背負います」
私が類を抱えて礼すると、黒澤はもう元の表に線を戻していた。
「くけ。邪魔だ」とでも言いたげな、いつものぶっきらぼうな背だった。
広告
それからさらに半の。
オフィスには、入社員の配属シーズンが訪れていた。
規事業発本部のミーティングルーム。
私はプロジェクトリーダーとして、配属されたばかりののをに、ブレインストーミングのファシリテーターを務めていた。
「……というわけで、まだ全然まとまってないんですけど」
入社か目の男性社員が、緊張で潮した顔を擦りながら、ホワイトボードに描いた器用な図を指差した。
「若いたちが、を買うんじゃなくて、全体をクローゼットみたいにして、着たいに着たいを所のから借りられるような……そういうプラットフォームって、できないでしょうか」
同席していた堅のディレクターが、で笑った。
「おいおい、それ何のシェアリングエコノミーの焼き直しだよ。クリーニングのコストはどうするんだ? 盗難リスクは? にも似たようなベンチャーが乱して、全部潰れたのらないのか」
は居悪そうに肩をすぼめ、線を落とした。
「すみません……やっぱり、素のいつきですよね」
私の指先が、ノートパソコンのキーボードので止まった。
喉の奥まで、かかっていた言葉があった。
『そのアイデアは、昔誰かが試して、痛い失敗をして終わったんだ』という、物り顔の先輩が吐き捨てるのに最も頃な、たい正論。
私は息を吸い込み、キーボードからをした。
そして、縮こまっているの目をまっすぐに見つめた。
「そのアイデアはね」
私の声に、ミーティングルームの空気がしだけ引き締まった。
「昔、誰かが挑戦して、散々失敗して、赤字をしてんだアイデアだ」
が、申し訳なさそうにを縮める。
私はホワイトボードのマーカーを本取り、の元へ放り投げた。
ペンをキャッチしたが、驚いたように顔をげる。
「でも、失敗した連がらなかったインフラが、今は全部揃ってる。……おなら、その体をどうやってき返らせる? 続きを聞かせてくれ」
の目が、パッとを宿した。
窓のでは、京のビルをのいが吹き抜けていた。
誰もが誰かの失敗の跡を踏み越えながら、それでも次のしいを刻むために、今という現へ向かって歩きしていた。