"作文の余白に書かれた秘密" 第16話
赤ペンの止まる所
保護者会が終わったの教は、祭りののように静まり返っていた。
処分はなかった。
に呼ばれた先が、「すべて私の指導計画の環としての表現実習です。徒たちに非はありません」と、教や保護者会会のでをげて突っぱねたからだった。
管理責任を問われた先自の指導歴には、何かしらの傷がついたはずだった。
けれど先は、職員に戻ってきてもそのことについて言もにしなかった。
の終わり、公の推薦入試が始まる頃、職員の掲示板に正式な事異の辞令が貼りされた。
『森恵美 教諭 県公学へ転』
先は最まで、私たちのに姿を現さなかった。
ただ、学期の終業式の、組の教宛てに通のいポストカードが届いた。
差の欄には、あの几帳面な字で『森』とだけかれていた。
裏面には、々とした言い訳も、なお別れの言葉も、徒ひとりへの特別なメッセージもなかった。
ただ、葉の央に、黒いインクで文字だけが印刷されていた。
『皆さんの健康を。』
それだけだった。
けれどその余の広さが、森先がようやく私たちという荷をろし、のとして息をし始めた証拠のようにえて、私はしだけ笑った。
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終業式のの放課。
夕暮れの職員は、成績処理を終えた教員たちの疲れた気と、めたコーヒーの匂いが漂っていた。
先は、窓際のデスクで最の週記の束をいていた。
の庭の片隅では、たいので、梅の丸く赤い蕾がさく膨らみ始めていた。
先の元には、私が提した最の作文用があった。
タイトルは『から』。
活へのや、相変わらずぎこちない族との関係が、飾らない器用な文章で綴られていた。
文章の結びは、決して綺麗とは言えない、途切れ途切れの言葉で終わっていた。
先は元の赤ペンを持ちげた。
ペン先が、私の作文の余、文章が急に途切れている自然な空ので止まった。
先の眉がかすかにいた。
かつて森先がしていたように、
あるいは、あの共ドキュメントで私たちが真似していたように。
『ここ、もう歩だけ踏み込めるはず。』
その使い古された、便利な正解のフレーズが、先の脳裏をよぎったのかもしれなかった。
けれど、ペン先がに触れる直、先のが止まった。
先はさく息を吐きすと、赤ペンのキャップをカチリと鳴らして閉めた。
そして代わりに、普段使っている黒いボールペンをペンてから引き抜いた。
定規で引いたような、しくて几帳面な文字が、余にさらさらと刻まれた。
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『ここ、本当は何が言いたかったのか分からなかった。、聞かせてくれる?』
そこには、相のを勝に推し量る全の優しさも、都のいい救済もなかった。
ただ、分からないことを分からないまま受け止め、相が自分ので言葉を運んでくるのを待つという、のとしての誠実な境界線だけがあった。
翌朝。
休みの静まり返った舎に、私のスニーカーの音が響いていた。
職員のにち、しだけ乱れた息をえる。
扉のすりガラスの向こうに、いつものように背筋を伸ばしてパソコンに向かう、先の横顔が見えていた。
私はもう、誰かの調を真似る必はなかった。
誰かに言ってもらいたい言葉を、画面の向こうに探す必もなかった。
私はノブにをかけ、引き戸を静かにけた。
「失礼します」
私の声に、先が顔をげた。
先は鏡の端を指でし押しげると、教卓のの赤ペンを置き、私に向かってさく、けれど確かに頷いた。
「おはよう、也」
「おはようございます、先」
たい朝のが差し込む職員の入で、私たちは初めて、お互いの名を呼びって笑った。