みかん小説
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"家出と呼んだ警察を私は許さない" 第13話

うたやろになあとってね」

はそう言って微笑み、タンスの引きしの奥から、あの古い赤いノートを取りしてきた。 擦り切れた表、千切れかけた輪ゴム。 それを航平のに、静かに載せた。

航平が震えるでノートをく。 付と額が几帳面に並んだ最のページ。 『千円 あと円』とかれたその余に、セロハンテープで、ピカピカに磨かれた枚の円玉が貼り付けられていた。

「お母ちゃんが、しといたんよ」 は優しく言った。 「あんた、りんかったやろ。これで、千百円や。……お母ちゃんの誕に、特の鰻、ご馳してくれるんやろ?」

歳の男が、子供のように声をげて泣き崩れた。 母の膝にを乗せ、肩を震わせて泣きじゃくる息子を、おしそうに、何度も、何度も撫で続けた。

その、航平たち族は、その古いで過ごした。 所の々が次々と訪れ、航平の帰還をがことのように涙を流してんだ。 チヨはに息を引き取っていたが、は航平を連れて彼女の墓を訪れ、わせた。 憎しみは、もうどこにも残っていなかった。

それからのは、涯ので、もっとも穏やかで、もっとも満ちりただった。

航平は度、必ず族を連れて本へ帰国し、もまた、迫田刑事らの助けを受けて度だけパスポートを取り、アメリカの航平のを訪れた。

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まれて初めて乗った。 カリフォルニアの青い空ので、芝の庭をり回る志津を繋ぎ、航平の運転するを見にった。 の空を埋めるにはあまりにだったが、そのは、黄のように輝いていた。

2008。 厳しい寒さが港町を覆った12は静かにに就いた。 を働き詰めで酷使してきた体は、すでに限界を迎えていた。 医師からは、老衰による緩やかな別れがいことを告げられた。

連絡を受けた航平は、翌の便にび乗り、関国際空港から病院へと駆けつけた。

のベッドので、枯れ枝のように痩せ細ったが横たわっていた。 扉がき、息せき切って入ってきた航平の姿を認めると、の瞳に、微かな、しかし確かなが宿った。

「……航平。来たんか」

「来たよ、お母ちゃん。ここ配よ」

航平はベッド脇に跪き、を両で包み込んだ。 節くれち、無数の傷とあかぎれの痕が残る、たくなりかけた母の々しく微笑み、掠れた声で言った。

「……う、待たせてしもたねえ」

「何言ってるんだよ。待ってたのはお母ちゃんのほうじゃないか。も……僕のために、ずっと待っててくれたじゃないか」

航平の目から、粒の涙がシーツに零れ落ちた。 はゆっくりと首を振った。

「……ううん。

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あんたがきててくれた。……それだけで、お母ちゃんのは、お釣りがくるくらい幸せやったよ」

「お母ちゃん……」

「もう、どこもかんでええんやね」

かないよ。ずっと、ここにいる。お母ちゃんのそばにいるよ」

は満そうに目を細め、く、らかな息を吐いた。 その呼吸が、しずつ、穏やかに隔を空けていく。

モニターの子音が静かに響く病で、航平は母のを握りしめながら、幼い頃に母がってくれたあの子守唄を、く、温かい声でい始めた。

「ねんねん……ころりよ……おころりよ……」

異国の暗で、自分を救い続けてくれた。 母の魂の残響。

「坊やは……よい子だ……ねんねしな……」

航平の声に包まれながら、森は、静かにその瞳を閉じた。 歳のだった。 その元には、かすかな、らかな微笑みが残されていた。

葬儀の、坂の町の古い寺には、入り切らないほどの々が集まった。 再発で別の町へ移りんだ昔の隣たちも、で共に働いた々も、みな黒いを着て集まり、涙を流した。 誰もが、彼女を「さん」ではなく、「航平ちゃんのお母さん」として見送った。 息子の帰りを信じ抜き、奇跡をその繰り寄せた、気い母親として。

航平の元には、今も冊の、古びた赤いノートがある。 アメリカへ持ち帰ったそのノートの最のページには、セロハンテープで留められた円玉が、今も鈍いを放っている。

カリフォルニアの自宅の斎で、航平はそのノートをくたびに、あの坂の町を吹き抜けていた潮の匂いをす。 そして、台所にち、娘のためにフライパンを握るのだ。 のエッジをカリッと焼き、黄を決して崩さない、完璧な半熟の目玉焼きを作るために。

母のは、よりもく、よりもかった。 は、希望があるから待つのではない。 しているからこそ、希望の消えった荒野のにすらち続け、待ち続けることができるのだ。

あの急な坂の、夕暮れのの突き当たり。 今ではしい宅がち並び、かつてのの面はどこにもない。 だが、初が港から吹きがってくる、そこには今も、真っなスニーカーを履いて駆け音と、それを笑顔で見送る母親の優しい声が、確かに響いている。

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