"35万円の空冷蔵庫" 第14話
男だから。
嫁だから。
親だから。
兄弟だから。
そんな言葉だけで誰かに犠牲をいる関係を、私はもう族とは呼ばない。
相をいやる。
嫌なことは嫌だと言う。
違ったは謝る。
困ったにはを差し伸べる。
そして、自分の都だけで相のを踏みにじらない。
簡単なことなのに、私は理解するまで20もかかった。
霊園をる頃、空はく澄んでいた。
私は弓のを握り直した。
「そうだ。へったらさ」
「はい」
「カニをべるに写真撮ろう」
「どうして?」
「35万円のは、浩司たちに勝に写真撮られただろ」
弓は瞬驚いた、笑った。
「じゃあ今度は2で?」
「そう。2だけで」
「SNSには載せませんよ」
「俺も載せない」
「じゃあ何のため?」
私はし考えた。
「俺たちが覚えておくため」
弓は静かに頷いた。
「それがいいですね」
半。
私たちは本当にへった。
できなタラバガニを杯買い、目ので茹でてもらった。
値段を見た弓は、
「い!」
と何度も言った。
「いいんだよ」
「でも健さん、こっちのしさいので分ですよ」
「今は番きいやつ」
「もったいない」
「35万円よりい」
そう言うと、弓は吹きした。
の見えるさな堂。
赤いカニを挟んで、私たちは員さんに写真を撮ってもらった。
弓はし照れながら笑っていた。
私はその顔を見てった。
母たちに奪われた35万円は戻せる。
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もも、法律で理できる。
だが弓が20失ってきたそのものは戻らない。
だからこそ、これから作るしかない。
誰にも気を遣わない正。
2でく旅。
弓が欲しい。
きたい所。
べたいもの。
笑いたいに笑える毎。
「健さん」
「何?」
「カニ、おいしいね」
弓が幸せそうに言った。
「ああ」
「でもね」
「うん?」
「私、あのお正のうどんの方が好きかもしれない」
私は笑った。
「俺もだ」
35万円のカニも肉もなかった。
級なおせちも酒もなかった。
残っていたのは、箱のうどんとしの野菜だけ。
それでもあの夜、弓が作った杯は、私がこれまでべた何より温かかった。
なぜなら、あの卓からようやく嘘が消えたからだ。
「今の正はどうする?」
私は聞いた。
弓はし考えた。
「うちでやりたいな」
「親戚呼ぶ?」
「呼びたいだけ」
「料理は?」
弓が笑った。
「うどん」
「また?」
「今度は最初からね」
「カニはいらない?」
「しなら」
「松阪牛は?」
「普通のお肉で分」
「35万円は?」
弓は笑いながら私の腕を軽く叩いた。
「絶対使いません」
窓の向こうにはの青い空が広がっていた。
私は妻の笑顔を見ながら、静かにった。
あの晦。
空っぽになった蔵庫ので、弓は自分の20がすべて否定されたように泣いていた。
だが今なら分かる。
本当に空になったのは蔵庫だけではなかった。
男の嫁だから。
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親だから逆らえない。
族だからしなければならない。
私たちを縛っていた古いい込みも、あのすべて空になったのだ。
そして何もなくなった所に、私たちはしい暮らしをつずつ入れ直した。
。
自由。
笑顔。
夫婦だけの。
言いたいことを言える関係。
もう誰にも奪わせない。
カニをべ終えた弓が、満そうにをわせた。
「ごちそうさまでした」
私はその横顔を見て笑った。
「ああ。ごちそうさま」
35万円の正材から始まったい戦いは、ようやく終わった。
残ったのは復讐の満などではない。
私が20遅れでようやく守ることのできた妻の笑顔と、誰にも支配されない2の活だった。
そしてそのの暮れ。
がの卓には、豪華な3段もA5ランクの肉も並ばなかった。
真んにあったのは、きな鍋。
弓が丁寧に取った昆布と鰹の汁。
梅の形に切った参。
焼いた餅。
つ葉。
柚子。
そして箱のうどん。
集まった親戚たちは、と同じように笑った。
「やっぱりこれだね」
叔父がすすって言った。
弓も笑う。
「今はちゃんと数分、最初から用しましたから」
私は隣で酒を注ぎながら、その景を眺めていた。
誰も弓へ命令しない。
誰かの杯が空いても、自分で酒を注ぐ。
料理がりなければ皆で台所へつ。
片づけも緒にする。
それが本来、族の集まりだったのだ。
「健さん」
弓が声で呼んだ。
「何?」
「今のお正、楽しいね」
私は頷いた。
「ああ」
「とは全然違う」
「そうだな」
しれた所では叔母たちが笑い、叔父が昔の父の話をしている。
仏壇には、父の好きだった黒豆とさな杯のうどんを供えた。
私はそのを通る、ので呟いた。
父さん。
今度こそ丈夫だ。
弓はもうじゃない。
俺も、もう逃げない。
窓のでは静かにがり始めていた。
の晦、蔵庫が空っぽになったには像もできなかったほど、のは温かかった。
弓が私の隣で笑っている。
それだけで分だった。
35万円では買えなかったもの。
20探しても見つけられなかったもの。
私たちはようやく、自分たちのでに入れた。
誰かの顔をうかがう必のない、本当の族の正を。
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