"元嫁の15枚返し" 第1話
午5。まだ窓のがに包まれている、古びたワンルームのに置かれた携帯話がけたたましく鳴り始めた。
布団をかぶって眠っていた佐藤恵子は、ゆっくりと目をけた。38歳。わずか3、12続いた結婚活に終止符を打ち、婚届に判を押して夫のをてきたばかりだった。
画面に表示された名を見た瞬、眠気が消えた。
京子。
3まで姑だった女だった。
恵子はしばらく着信画面を見つめた、静かに通話ボタンを押した。元へ携帯話をづけた途端、挨拶も何もなく甲い声がび込んできた。
「今すぐ来て、おせち料理の支度を伝いなさい!」
受話器の向こうはひどく騒がしかった。油のねる音、何かを落とした音、女たちの鳴、フライパンらしきものがシンクへぶつかる属音まで聞こえてくる。
恵子は布団のにゆっくり起きがった。
この部は賃4万円のさなワンルームだった。持ってきた荷物はトランク1つと布団1組だけで、蔵庫にはミネラルウォーター2本と、にコンビニで買ったおにぎりが1つ置かれているだけだった。
それでも昨夜、恵子は12ぶりと言ってもいいほどく眠った。
朝に起きて義父の薬を準備する必もない。朝を4分並べ、洗濯を回しながら姑の嫌をうかがう必もない。
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ようやくに入れた静かな朝を、元姑の声が叩き壊していた。
「聞いてるの? く来なさいって言ってるでしょう!」
恵子は眠気の残る目を閉じ、く息を吐いた。
「私はもう、あのの政婦でもメイドでもありません」
話の向こうで息をむ音がした。
京子は数秒ほど黙っていたが、やがて信じられないとでも言うように声を張りげた。
「あんた、今私に何て言ったの?」
「聞こえたといます」
「婚したからって、ずいぶん偉くなったものね。慰謝料もろくにもらわず、裸同然で追いされて、今頃おに困っているんでしょう?」
京子はで笑った。
「かわいそうだから仕事を与えてあげるって言ってるのよ。1000円にしてあげるから、ありがたくって今すぐんできなさい」
1000円。
その言葉を聞いた瞬、恵子の胸の奥に12の記憶が静かに浮かびがった。
毎、末になると夜けから台所にった。首が痛くても包丁を握り、煮物を作り、魚を焼き、族の好みにわせて何種類もの料理を用した。
料理を卓へ並べ終わる頃には、京子も夫の健も、義妹の羅もかなリビングに集まってテレビを見ていた。
誰も「ありがとう」とは言わなかった。
べ終われば空になった皿だけが台所へ戻され、洗うのも片づけるのも恵子だった。
そんな嫁へ、婚した3の朝に「1000円で雇ってあげる」
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と言っている。
その、話の向こうから若い女の甘ったるい声が聞こえてきた。
「お義母様、どうしてあんなな女をまた呼ぶんですか?」
恵子はその声をっていた。
桃。
健の会社で秘をしていた女であり、夫と関係を持ち、恵子を追いした直から堂々とあのにみ始めた女だった。
「今はデパへけば、おせち料理なんて何でも売ってるじゃないですか」
桃はくすくす笑った。
「まあ、私たちが料理の仕方をらなくて、油をそこらにばして騒ぎになったのは事実ですけど。活に困ってる恵子さんに仕事を与えてあげるっていうなら、仕方ないですよね」
続いて義妹の羅まで声をげた。
「桃お姉さんの言う通りよ。お母さん、私さっき指に油がねて傷しそうになったんだから。恵子お姉さんは12ずっと作ってたんでしょう?」
そして悪びれもせずに笑った。
「さっさと来て作ればいいのよ。1000円ももらえるんだから、お互い得じゃない。むしろ謝してほしいくらいだわ」
3の笑い声が携帯話のさなスピーカーから溢れした。
恵子は黙って聞いていた。
議なほど、腹はたなかった。
り切ってしまうと、は逆に静かになるのかもしれない。
恵子は数秒待ってから、穏やかな声でをいた。
「どちら様ですか?」
「……は?」
「おばさん、話をかける相を違えていますよ」
瞬にして笑い声が消えた。