"12年目の虫かご" 第2話
さらに将来には、その1息子である翔太へ相続される形になっていた。
夫に残されるのは、部のの管理権と限られた財産だけだった。
に親しいは、夫がその頃、酒をみながら何度も同じ言葉を漏らしていたと証言している。
「兄貴は昔からそうだ。何でも持っていく。俺には残り物しか回ってこない」
幼い頃から兄と比べられてきた劣等。
膨らんだ借。
最に期待していた相続。
それらがつになり、夫ので何かが静かに崩れ始めていた。
事件の数から、夫は本が所する作業の奥で、1で作業を続けていた。
古い倉庫を備するためだとには説していた。トラックで資材を運び込み、製の型枠を組み、量のセメント袋を積みげていた。
通りかかったが声をかけると、夫は汗を拭きながら笑った。
「兄貴が帰ってくるに片づけておかないとね。お盆には終わらせますよ」
誰もその言葉を疑わなかった。
事件の夕方、翔太たちは翌の虫取りについて相談していた。朝く集まり、の腹にある森までき、昼過ぎには戻ってくるつもりだった。
翔太はその夜、母親が用してくれたしい虫かごと網を枕元へ並べた。腕計のねじも忘れずに巻き、翌朝寝坊しないようめに布団へ入った。
広告
翌朝。
5は予定通り雑貨のへ集まり、文からラムネを受け取った。そして午8過ぎ、の奥へ向かって歩きした。
そこまでは、誰もがっている。
問題は、その先だった。
午になっても、族はまだ配していなかった。虫取りにになっているのだろうとい、それぞれのでは夕飯の支度が始まっていた。
ところがが傾き、神社に祭りの提灯が灯り始めても、5は戻らなかった。
最初にい違を覚えたのは翔太の母親だった。
「暗くなるに帰るって言ってたのに……」
計を何度も確認しながら玄関のを見る。しかし、から息子がってくる姿はなかった。
母親はの4軒へ話をかけた。
「そちらに翔太はっていませんか?」
返ってきた答えは、どのも同じだった。
「うちの子も帰っていないんです」
そこで初めて、5の子供が全員戻っていないことが分かった。
午9を過ぎる頃には、の自治会へ緊急連絡が回った。懐灯を持ったたちが公民館へ集まり、すぐに捜索隊が組まれた。
その、真っ先にへたのが夫だった。
翔太の母親は顔を失い、今にも倒れそうになっていた。夫はそんな義姉のをく握った。
「義姉さん、配しないでください」
夫は目を見て言った。
「私が必ず見つけします」
その言葉に、翔太の母親は何度も頷いた。
広告
夫は捜索隊を率い、の裏を流れる川の流へ向かった。
「子供たちがでに迷ったなら、川沿いへりてくるはずです」
妙に確信を持った調だった。
たちはその言葉を信じた。
川岸。
藪。
。
用。
懐灯のかりが夜のをき回った。
「翔太!」
「おーい!」
「聞こえたら返事しろ!」
族の声が、暗いへ何度も吸い込まれていった。
しかし返事はなかった。
翌朝からはさらに数が増え、隣域まで捜索範囲が広げられた。それでも子1つ、虫かご1つ見つからない。
3目、警察が正式に捜索へ加わった。
当はまだ38歳だった1の刑事も、そのにいた。
の捜査員が川沿いをに調べる、その刑事はし違うことを考えていた。
5全員が川へ落ちたのなら、何か1つくらい痕跡が残っていてもおかしくない。
それなのに、何もない。
刑事は子供たちが最に歩いたとされるを、1でゆっくりと辿った。
雑貨。
。
本の作業。
そしてへ続く分かれ。
その途で、刑事は面に残るさな跡に気づいた。
しゃがみ込み、指でをなぞる。
子供用の運靴らしい跡だった。
しかも、靴底の模様がはっきり残っている。品にい靴だった能性がかった。
刑事は周囲を見回した。
跡は、へ向いていなかった。
本の作業の内側へ向かっていた。
刑事は本の作業へ入ろうとした。
しかし、奥から現れた夫がすぐにづいてきた。
「刑事さん、そこは私がもう2回探しましたよ」
広告
おすすめ作品
-
完結第7話
300億を捨てた相場師
1999年秋、長野県桑原市。 300億円の資産を築いた株長者・梶常明が、自宅から忽然と姿を消した。財布も通帳も印鑑も、車も携帯電話もすべて家に残されたまま。争った跡も、身代金の要求もなく、彼はまるで何も持たず夜の中へ歩いていったかのようだった。 警察は誘拐、自殺、失踪の可能性を探るが、決定的な手がかりは見つからない。ただ一つ、刑事・矢島の心に引っかかったのは、失踪直前に常明が昔暮らしていた古い県営団地を訪れていたという証言だった。 それから6年後。 定年を控えた矢島のもとに、常明の義母・千鶴から一本の電話が入る。余命を宣告された彼女は、死ぬ前にどうしても伝えたいことがあると言った。 常明には、家族にも明かさなかった過去があった。 300億円を手にした男が、なぜ何も持たずに消えたのか。 彼が最後に戻ろうとした場所はどこだったのか。 古い団地の一室に残された手紙が、6年間眠っていた失踪の理由を静かに明かしていく。ミステリー|行方不明9.8千字5 44 -
完結第9話
水底に沈めた嘘
1997年11月、長野県安曇野の貯水池へ釣りに出かけた木村俊助は、そのまま姿を消した。 現場にはトラックと釣り竿、そして一度も手をつけられていない弁当箱だけが残されていた。水門の左、3本目の柳の木の下。そこに竿は立てられていたのに、俊助本人の姿だけがどこにもなかった。 妻・文江は「夫が帰ってこない」と夜になって警察へ通報する。警察は事故や失踪の可能性を調べたが、決定的な証拠は見つからず、事件は長い時間の中へ沈んでいった。 しかし、見過ごされた違和感は残っていた。 遅すぎた通報。消えた夫に払い続けられたポケットベル料金。再生されなかった23件の音声。失踪からわずか3日後の保険会社への問い合わせ。そして、夫の口座から流れていた謎の金。 7年後、貯水池の浚渫工事が始まった時、泥の底から黒い包みが引き上げられる。 水面に浮かび上がったのは、1人の男の行方だけではなかった。 妻が長年隠し続けた計画と、沈めたはずの嘘だった――。ミステリー|行方不明1.3萬字5 183 -
完結第10話
熱海失踪、2時12分のポケベル
1993年秋、就職活動に疲れた26歳の佐藤美緒は、姉夫婦に誘われて熱海温泉へ向かった。 久しぶりに笑顔を見せた美緒。温泉に浸かり、居酒屋で姉と笑い合ったその夜までは、ただの家族旅行に見えていた。 しかし翌朝、美緒の部屋は空だった。財布も身分証も荷物も残されたまま、開け放たれた窓と、消えたスリッパだけが残されていた。 警察は当初、就職活動に悩んだ末の失踪と見なした。姉の由香は必死に妹を探し続け、夫の健二もまた、誰よりも献身的に支える“理想の義兄”として周囲から信頼されていく。 だが6年後、眠っていた捜査ファイルが再び開かれる。 偽名で泊まっていた男、深夜2時12分のポケベル、そして健二が語らなかった20分間の空白。 完璧に見えた義兄の優しさは、本当に家族への愛だったのか。 熱海の夜に隠された嘘が、6年越しの再捜査で静かに崩れ始める――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 1853 -
完結第8話
10年目のボイラー室
1992年秋、長野県木曽川沿いの古い旅館に、名古屋から1人の旅行客・山田誠が訪れた。 紅葉を見て、川沿いを歩き、週明けには会社へ戻るはずだった、ごく普通の一人旅。だが翌日、山田は荷物を部屋に残したまま姿を消してしまう。 川にも山にも痕跡はなく、旅館の関係者たちの証言もどこか食い違っていた。従業員の曖昧な目撃談、正午頃に聞こえた男2人の声、そして午後4時にかかってきた正体不明の電話。 真相が分からないまま、事件は10年の沈黙に包まれる。 そして2002年、廃業した旅館の解体工事中、1階奥のボイラー室で不自然に塗り直された床が見つかる。 そこには、誰かが長い年月封じ込めてきたものが眠っていた――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 285 -
完結第8話
鳴らなかったホイッスル
1988年、紅葉シーズンの箱根峠で、23歳の女性バスガイド・高橋美咲が突然姿を消した。 乗客確認のために濃い霧の中へ降りた彼女は、そのまま戻らなかった。警察は生活苦による失踪と判断したが、高校生だった弟・健二だけは、姉が自分を置いて消えるはずがないと信じ続けていた。 それから15年後。 台風で崩れかけた休憩所の擁壁から、髪の毛が絡みついた「ちぎれたホイッスルの紐」が見つかる。それは、美咲が仕事中に首から下げていたものと酷似していた。 姉は本当に自ら姿を消したのか。 霧の夜に響いた鈍い音、消された運行記録、事件直後に退職した運転手。 15年間封じ込められていた峠の秘密が、冷たい擁壁の隙間から静かに姿を現し始める。ミステリー|行方不明1.1萬字5 234