"熱海失踪、2時12分のポケベル" 第10話
2のにまれた娘は5歳だった。
由は娘の姓を、自分の旧姓である佐藤へ戻した。
周囲から「1で育てるのは変ではないか」と言われることもあった。
由はそのたびに答えた。
「この子が父親の名字を背負ってきる方が、ずっと変だとうから」
父の茂は、裁判から約半にくなった。
74歳だった。
病で由のを握り、最ににしたのは美緒のことだった。
「美緒に申し訳ない」
由は父のを握り返した。
「お父さん……」
「お父さんが、を見る目を違えた」
由は何も答えられなかった。
父が悪いわけではない。
自分が悪いわけでもない。
それでも、切なを失ったには、誰もが「自分があのこうしていれば」と考えてしまう。
美緒の墓は、に父の墓の隣へ建てられた。
由は毎のように墓を訪れた。
を持っていくもあれば、何も持たずにくもあった。
妹が好きだった物をいそうとして、記憶が曖昧になっていることに気づくもあった。
そんなは、墓のにく座った。
妹の声をいそうとした。
26歳の美緒。
就職活に悩みながらも、の湯で「気持ちいいね」と笑った妹。
その笑顔を、由は忘れないように何度もので繰り返した。
田はそのも刑事として働き続けた。
定を迎えた、元同僚から「番忘れられない事件は何だったか」
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と聞かれると、美緒の事件を挙げたという。
「最初にファイルをいたな」
田は酒の席で静かに話した。
「A4用が数枚しか入ってなかったんだ」
同僚たちは黙って聞いた。
「1のが消えたのに、それだけだった。それがずっと引っかかった」
田はグラスを置いた。
「3枚で終わっていいなんて、この世にないんだよ」
初捜査を担当した鈴も、再捜査の結果を聞でった。
判決の記事を読んだ、鈴は自分の煙をいつもよりく閉めた。
の奥で、6から保管していた帳をいた。
〈最の目撃22。自然〉
〈20分の空〉
〈単、3〉
当じていた違が、ページのに残っていた。
鈴は最ののへ、しく何かをき加えた。
そこに何をいたのかは、誰にも話さなかった。
健は役、由へ1度だけを送った。
封筒には健の名がかれていた。
由はいそのを見つめた。
それでも封をけなかった。
机の引きしの番奥へ入れ、そのままにした。
いつか読むが来るのか。
読まないのか。
由自にも分からなかった。
世のには、読むことで答えが得られるもある。
しかし、読んでも失ったが戻らないもある。
由は選択を急がなかった。
の旅館があった所には、すでに別の建物がっている。
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1階のも、2階の学習塾も、とともに経営者が変わった。
今、そのを歩くくのは、1993のにそこで26歳の女性が姿を消したことをらない。
美緒が6いた農業用の周辺にも、季節は変わらず巡ってくる。
になると苗が植えられ、には青々とした稲がに揺れ、には黄の穂が刈り取られる。
問題のコンクリート蓋は撤された。
今そこにあるのは、何の変哲もないと田園の景だけだ。
真実がらかになるまで6がかかった。
最初のい捜査ファイルのへ沈んでいた美緒の名は、田の執によってもう度へ引きされた。
それでも、取り戻せないものはあまりにもかった。
美緒が見るはずだった。
受け取るはずだった格通。
始めるはずだった仕事。
いつか会ったかもしれないたち。
姉と笑いうはずだった何気ない々。
そのすべては戻らない。
法廷が示せるものには限界がある。
罪名と刑期を決めることはできても、失われた6を取り戻すことはできない。
由はそのも娘を育てながら、きていった。
妹を失った姉として。
信じていた夫に裏切られた妻として。
そして、自分には何の罪もない娘を守る母として。
々、で過ごした最の夕をいすという。
湯気のつおでん。
しだけ酒をんで頬を赤くした妹。
久しぶりに聞いたきな笑い声。
あの夜の途までは、本当に楽しい族旅だった。
だからこそ由は、事件だけを美緒の最の記憶にはしなかった。
26歳でが止まった女性ではなく、悩みながらも仕事を探し、姉に迷惑をかけまいと気を遣い、温泉で久しぶりに笑った妹として覚えていた。
6隠され続けた真実の最に残ったのは、健の嘘だけではなかった。
それでも妹を忘れずにき続ける、由の記憶だった。
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