"魚臭い嫁の30万円返し" 第6話
兄は言葉を失い、そのにち尽くしていた。先ほどまで私へ助けを求めていた顔から、気に気が消えている。
しかし、私が本当に恐ろしいとったのは、兄ではなかった。
横にいるユキの顔を見た瞬、私は息を止めた。
般若のような表だった。
りで目を見き、元だけが自然に歪んでいる。私に向けられた顔ではないと分かっていても、わず歩退したくなるほど恐ろしかった。
ユキはい声で兄へ尋ねた。
「夜の女にうつつを抜かして、投資でおをなくして、仕事でも信用をなくしたの?」
兄はをいたが、言葉がてこなかった。
「それで今度は、妻までなくしてみる?」
私はわず吹きしそうになったが、必に堪えた。
決して笑っていい空気ではない。兄の自業自得とはいえ、玄関先には肌がひりつくほど殺伐とした空気が流れていた。
兄は両をへし、ずさった。
「これは、その……ちょっと理由があるんだ」
「ちょっと?」
ユキはゆっくりとちがった。
「理由があるの?」
「いや、だから……」
「ちょっとだけなら聞いてあげる。ちょっとだけならね」
ユキは静かに兄へづいた。背から黒い煙でもちっているように見え、兄も本能に危険を察したのか、さらにろへがった。
私は2のへ入る気などなかった。
「うん。今も2は仲が良さそうでした」
広告
兄が信じられないものを見るように、私へ顔を向けた。
「カナ、待て。助けてくれ」
「は、お2で仲良く話しって」
私はにっこりと微笑んだ。
「私もモモも、もうお兄ちゃんに関わるつもりはないから。度と連絡してきたり、へ来たりしないでね」
「おい、待てって」
「じゃあ、バイバイ」
私は軽くを振り、玄関の扉を閉めた。
から兄が「助けてくれ」と叫んでいたような気がするが、きっと気のせいだ。はっきり聞こえていたものの、気のせいということにしておいた。
その、廊かられていく音が聞こえた。
どうやら兄は、ユキにどこかへ連されたらしい。奥などでなければよいが、親族の事件でニュースにるのは困る。
私はのためコウへ連絡し、兄夫婦が来たことを伝えた。
「丈夫だった?」
「私は丈夫。お兄ちゃんは丈夫じゃないかもしれないけど」
事を話すと、コウは呆れたように息を吐いた。
「へ入れないと言われたも、自分が何をしたのか全然分かっていなかったからな」
「もう関わらなくていいよね」
「もちろん。カナが気にする必はない」
コウは最まで、兄の仕事を救うためにの方針を変えることはなかった。
兄が接待へ使いたがっていたからといって、側が必ず受け入れなければならない理由はない。ましてや、と職を侮辱したへ便宜を図る義理など、どこにもなかった。
広告
それから1ほど経った頃、ユキから私とコウへが届いた。
封筒を見た瞬、私はまた何か銭を求されるのではないかと警戒した。しかし便箋にかれていたのは、にも謝罪の言葉だった。
兄とは、銭問題を隠していたことや、借を作った理由を巡って婚したらしい。
兄の投資による損失は、私が聞いていたよりもきかった。さらにリリアへ使っていた額も、ユキが像していた範囲を超えていたという。
宅ローンを抱えながら、夫が隠れて資産を減らし続けていた。
兄は最まで「取り返せる予定だった」「な損だった」と言い訳をねたらしい。しかしユキは信用できず、弁護士を通して婚の続きをめた。
には、自分の両親が介護になったこともかれていた。
両親の世話をするで、ユキは自分がかつて母へ言った言葉をいしたという。
自分の親以の寄りは汚い。
咳をした母を見し、事の席をった。
母の見いにも葬儀にもかず、私の夫の仕事まで侮辱した。
自分が両親の介護を始め、事や入浴を伝うようになって初めて、当の自分がどれほど恥ずかしく、残酷なことをしていたのか理解したとかれていた。
現は実くの料理で働きながら、1で両親の世話をしているらしい。
かつて寿司を臭い仕事だと見していたユキが、今は料理をすで働いている。