"赤ワインの逆転離婚" 第3話
「うん、きたい」
自分でも驚くほどく答えていた。
夫はようやくこちらを向き、く頷いた。
「じゃあ、俺が予約する。恵の仕事の予定を教えてくれよ」
「分かった。確認して送るね」
会話は何ともあっさりしたものだった。それでも私は、カップ麺の容器を両で包みながら、久しぶりにがるくなるのをじていた。
最たかったのは、仕事で嫌なことが続いていただけかもしれない。
夫なりに今の関係をて直そうとしてくれているのではないか。に誘うことで、私とのを取り戻そうとしているのかもしれない。
ほんのしまで婚を考えていた自分が、急に恥ずかしくなった。
数、私は勤務予定を夫に送り、休みがなるにを予約してもらった。夫はの名を教えず、当まで楽しみにしていろと言った。
その言葉に、私はますます期待した。
夫と2でするのは本当に久しぶりだった。何を着ていこうか、どんな話をしようかと考えているうちに、え切っていた関係がしだけ元に戻るような気さえした。
当、私は仕事をめに切りげるつもりだった。
しかし予定の対応がなり、結局はぎりぎりまで職をれられなかった。急いで帰宅すると、夫はすでにスーツへ着替え、玄関くで腕計を確認していた。
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「まだかよ」
靴音を響かせながら寝へ向かう私の背に、夫の苛った声がんできた。
「ごめん、すぐ準備する。予約まではまだ余裕があるでしょう?」
「余裕はあるけどさ。何でもっとく用できないかね」
棘のある言い方に、胸が痛んだ。
事に分かっていた予定なのに、ぎりぎりまで仕事をしていた私にも非はある。それでも予約には分にうに帰ってきたのだ。
「俺はとっくに準備が終わってるんだけど」
休だった夫と、仕事を終えて帰ってきたばかりの私を比べられても困る。
そう言い返したかったが、論をしているはなかった。せっかくのを台無しにしたくなくて、私は黙ってクローゼットをいた。
急いでいワンピースに着替え、鏡ので化粧を直す。髪をえながら夫へ目を向けた、私はさな違に気づいた。
「ねえ、あなた」
「何だよ」
「そのネクタイ、から持ってた?」
夫の首元には、見覚えのないネクタイが結ばれていた。
すれ違いのい夫婦とはいえ、夫が持っているネクタイの種類くらいは把握している。自分でを選ぶことを面倒がる夫のために、これまでは私が買うこともかったからだ。
「ああ、これ?」
夫は反射にネクタイへ触れた。
瞬だけ線が揺れたように見えたが、すぐに顔を背けた。
「たまたまで見かけて、気に入ったんだよ」
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おしゃれには全く興がなく、穴のいた靴さえ平然とはく夫が、自分でネクタイを選んだ。
自然にはじたが、がなかった。今ここで追及して空気を悪くしたくないといういもあった。
そんなこともあるのだろう。
私は自分に言い聞かせ、バッグをに取った。
「お待たせ。こう」
夫は返事をせず、先に玄関の扉をけた。
その背を追いながら、私は胸に残るさな違を無理に押し込めた。
タクシーが到着したを見げ、私はわず声をげた。
「えっ、ここなの?」
そこは級ステーキを売りにしている名なレストランだった。落ち着いた観とな扉は、気軽に入れるではないことを物語っていた。
「奮発したんだよ」
夫は得げに笑い、先に入へ向かった。
その姿がいつもより輝いて見えたのは、私が現なだけかもしれない。これほどの級へ来るのは初めてで、私は嬉しさと緊張を抱えながら内へ入った。
案内された席にはいテーブルクロスがかけられ、磨かれたグラスと器が然と並んでいた。周囲の客も落ち着いた装いで、静かな声で会話を楽しんでいる。
私は子へ腰をろし、内を見回した。
「すごいね。こんな、初めて」
「恥ずかしいから、あまりきょろきょろするなよ」
夫の声には、すでに苛ちが混じっていた。
私は笑いかけようとした表のまま固まった。
「何、お。こういうでのマナーもらないの?」