"消えた花嫁の名札" 第5話
2003の、加茂に異の辞令がりた。警庁内の別の管轄への異だった。送別の会の席で、係が彼の肩を叩いた。
「加茂、もうその事件は忘れろ」
「はい」
「が経てば、答えのない事件は答えのないままにしておく方がいいこともある」
「分かっています」
けれど、その夜、自宅に戻った加茂は机のに座り、黒い革の帳をもう1度取りした。
そして最のページに、もう1だけきした。
「管轄が変わっても、私はこの名を忘れない」
帳は再び、引きしの1番奥へしまわれた。
その頃、唯の親族である阪千鶴のも同じように流れていた。
美緒と織の母の姉にあたる女性だった。母方の親戚との繋がりは細く、姉妹に残った唯の内は、叔母の千鶴だけだった。
当の千鶴は58歳。渋でさな教を営んでいた。
毎613になると、千鶴は美緒が結婚相からもらったというのネックレスの写真を胸にしまい、世田を訪れた。
美緒がんでいた軒茶のアパートは、やがて取り壊され、しいマンションが建った。それでも千鶴はその所にい菊の束を置き、しばらく空を見げた。
「美緒。おばさんが来たよ。今も来たよ」
言葉は、それだけだった。
かつて千鶴は、私探偵を雇って織の資産の流れを追わせようとした。
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訪問護ステーションの業資がどこからたのか、美緒名義の定期預がどう処理されたのかをりたかった。
だが探偵は、最にこう告げた。
「状況証拠だけではりません。おの流れは、違法ではない形で理されています。警察がもう1度かない限り、私たちにできるのはここまでです」
その夜、千鶴は教の墨の匂いのにく座っていた。先から墨が落ち、半に黒い染みを作ったが、彼女はそれを拭わなかった。
2005、美緒が消えてから6半が過ぎていた。
民法の失踪宣告の請求が能になる点まで、残り半ほどだった。
そのの、織は再婚した。相は病院代にりった麻酔科の医師だった。同じの、織は田園調布くの型の建物を購入するため、資を用し始めた。1階にリハビリ支援の訪問護ステーションを業する計画だった。
昼はいユニフォームを着て、真面目な事業主としてきる女性。
夜は本の会員制クラブに定期に入りし、には箱根の別荘を借りて過ごす女性。
その活の台には、美緒の預2500万円が唯の法定相続である自分へ流れ込むことを提にした計算があった。
2005、織は庭裁判所に美緒の失踪宣告の請求を正式にした。
「妹をらかに送ってやりたいのです。
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いつまでも、どこかできていると信じ続けるわけにはまいりません」
担当記官ので、織はそう言ったという。
そのらせを聞いた千鶴は、初めて織の名を声にして呼んだ。
「織、お、本当に……」
言葉はそこで途切れた。
けれどそのからだった。
千鶴のでぼんやりとしていた疑いが、はっきりした名を持つ確信へ変わり始めたのは。
2006初め、失踪宣告が確定した。
美緒は法に、この世のではなくなった。同に、美緒名義の定期預2500万円は、唯の法定相続である織へ移った。
訪問護ステーションは、その資をがかりに拡張を始めた。
けれど、織の眠れない夜は増える方だった。
2006の半から、織は昼も自分の部で1きりで過ごすが増えた。訪問護の事業が定するにつれ、織のには昼の政婦を兼ねた訪問介護者が入りするようになった。
その女性は60代半だった。
ある、彼女はそうな表で話した。
「苅田さんが昼寝をなさる、よくおかしな声をされるんです」
「おかしな声?」
「美緒よ。それだけはなぜ抜かなかったの、と繰り返されるんです」
その言葉は、訪問介護者のにずっと引っかかっていた。
美緒という名。
それだけはなぜ抜かなかったの、という言い回し。
何かを責めるようでもあり、何かを悔やむようでもあった。
朝になると、織は何事もなかったような顔をしていた。訪問介護者が回しに聞いても、本は覚えていないと言った。