"消えた花嫁の名札" 第1話
1999614、曜の午947分。
梅線が京の空にく垂れ込め、世田の古い宅は、朝から湿った空気に包まれていた。はまだ落ちていなかったが、はく、の葉は濡れるから暗く沈んで見えた。
世田警察署の当直では、古い話のベルがく鳴った。
受話器を取ったのは、当直についていた若い巡査だった。机のにはまだめきっていない缶コーヒーがあり、窓のにはの空が広がっていた。
「世田警察署です」
話の向こうから聞こえてきたのは、30代くらいとわれる女性の声だった。
「あの、失踪届をしたいのですが」
声は議なほど落ち着いていた。泣き崩れているわけでもなく、息が乱れているわけでもない。夜通し内を探し回ったの切迫とは、どこか違っていた。
巡査は子に座り直し、元のメモ用に鉛を当てた。
「お名と、ご関係から伺ってもよろしいでしょうか」
「私は苅田織です。34歳です。渋区の総病院で護師をしています」
淡々とした声だった。
「失踪したのは妹の苅田美緒です。29歳です」
巡査はその名をき留めながら、線だけをしげた。失踪した妹。29歳。病院勤務の姉からの届け。言葉だけを見れば、よくある族からの相談に見えた。
「妹さんは、いつから戻られていないのですか」
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「昨の夕方8頃です。結婚する方に会いにくと言ってていったんです。私は残業で夜2に帰宅しました。朝起きてみると、部ががらんとしていて……帰っていませんでした」
言葉に詰まる箇所がなかった。
妹が夕べから帰っていない。
話の冒で織はそう言った。けれどその声は、妹を配する姉というよりも、決まった報告を読みげるの声にかった。
受付内容はすぐに刑事課へ引き継がれた。
同午1過ぎ、担当者が世田区軒茶の古い造アパートへ向かった。アパートは駅からしれた宅にあり、壁の塗装はところどころ剥げ、階段の板はががるたびに軋む音をてた。
担当したのは、刑事課巡査部の加茂慎之助。41歳。派なち回りをする刑事ではなかったが、目についたものを細かく拾う癖があった。
加茂が2階の廊をむと、205号の扉が静かにいた。
「どうぞお入りください。こんなことになってしまって、申し訳ありません」
迎えた織は、アイボリーのカーディガンをきちんと羽織っていた。髪は乱れておらず、顔にはい化粧まで施されていた。
妹が姿を消してから12以が経っている女性の態度としては、いすぎている。
加茂はそうじたが、表にはさなかった。靴を脱ぎながら、まず狭い玄関の靴箱に目をやった。
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段に、いスニーカーがきちんと揃えられていた。護師が通勤用に履くような、清潔のある実用な靴だった。かかとの減り具から、常に使われていたものだと分かる。
「美緒さんは昨かける、どんな靴を履いていましたか」
加茂が尋ねると、織は拍置いた。
「さあ、詳しくは……たぶん黒いパンプスだったといます」
「通勤ののい靴は、そのままですね」
「はい。それは病院にくだけ履くものですから」
加茂はさく頷き、玄関から内へ入った。部は女性2暮らしにしてはっていた。器棚、古いテレビ、いテーブル、壁際の本棚。護関係の本と結婚式のパンフレットが同じ棚に置かれていた。
「バッグは持ってたのですか」
「ええ。ベージュのハンドバッグです。結婚する方から頂いたものです」
「確かですね」
「はい、確かです」
その返事もまた、ほんのしだけ遅れた。
加茂はその遅れを帳にかなかった。だが、胸のには残した。
美緒の部へ案内されると、部は頓されていた。ベッドのに乱れはなく、机のには結婚式の招待状の試作品が置かれていた。2ヶに式を控えた嫁の部だった。
けれど、そこには失踪した女性の自然な気配があった。
1つ目は、ダンスの引きしに入っていた指輪ケースだった。
には、結婚相から贈られたダイヤの指輪がそのまま収まっていた。
「妹さんは、この指輪を置いてかけたのですか」
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