"霊場巡礼の嘘" 第1話
1999915、午7。
野県の部にひっそりと建つ慈源修院で、奇妙な来事が起こった。
朝の勤をらせるため、管理が客のにった。廊にはまだ朝の気が残り、古いのがさく軋んでいた。いつもなら、このには部のから擦れの音や、老がゆっくり返事をする声が聞こえる。
管理は扉を軽く叩いた。
「田様、おです」
しかし返答はなかった。
もう度、しく叩いた。廊の奥に音だけが響き、また静けさが戻ってきた。胸のにさながまれ、管理はそっと扉にをかけた。
鍵はかかっていなかった。
扉をけると、部のには誰もいなかった。
ベッドのには、布団がきちんと畳まれていた。窓辺にはみかけのほうじ茶の茶碗が置かれ、めた茶の表面にはい膜が張っていた。机のには、1枚のき置きが残されていた。
管理は息を呑み、そのをに取った。
そこには、震えたような跡でこうかれていた。
「仏陀の呼び声に従い、霊巡礼の旅にます。財産はすべて修院へ寄いたします」
き置きを残したのは、当72歳の田子だった。
田は京でさな印刷会社をたたんだあと、この修院に入所してまだ3か目だった。子どものいない独りで、入所当には3000万円規模の預と、京区のマンション1を所していた。
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らせを受けた院の藤堂政治は、警察に落ち着いた声で説した。
「田信者様は、数から国88か所を巡りたいとおっしゃっていました。本朝におちになったようです」
藤堂はそう言いながら、1冊のファイルを差しした。には財産寄に関する類がえられていた。類には田子の実印がしっかり押され、公正証まで添付されていた。
警察官は類をめくりながら首をかしげた。
自発な巡礼。
本のき置き。
本の印鑑。
財産寄の完璧な類。
自然ではあったが、事件として扱う決定な根拠はなかった。田に寄りはなく、失踪届をす族もいない。本が自発に旅ったという形なら、警察がそれ以踏み込む理由はかった。
しかし、奇妙な来事はそれで終わらなかった。
1かの10、78歳の佐藤子が同じようなき置きを残して消えた。やはり独りで、数千万円規模の財産を修院へ寄するという類が残されていた。
11には70歳の林子が、12には70歳の子が、同じ方法で姿を消した。
4かのに、4の老が消えた。
だが、探す族は誰もいなかった。全員が独りであり、そもそも失踪届をすがいなかったからである。
修院の信者たちは、々に言った。
「仏陀の呼び声に従い、霊へ旅たれたのです」
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誰もく疑わなかった。
のの修院。
老いた信者。
財産寄。
巡礼への旅ち。
それらは、奇妙でありながらも、信仰という言葉で覆い隠されていた。
しかし199912末、塩尻警察署に匿名の通報話が入った。
「野のの修院で、老が次々と消えています。自然です」
話の声はく、それ以くを語らなかった。
警察が修院へ向かった、そこには15ほどの信者がいた。半が60歳以の齢者だった。彼らは静かに読経し、落ち着いた様子で々を過ごしていた。
院の藤堂政治は、まだ28歳の青だった。
黒い角鏡をかけ、髪をきちんとに分けた痩せた男だった。いシャツに黒いスラックスを着て、穏やかな微笑みを浮かべながら警察を迎えた。
「当院は仏の慈に満ちた所です。をねた方々が、の最を仏に捧げようとお越しになります」
その説は論理で、態度も堂々としていた。
しかし帳簿を調べた警察は、そこで驚くべき事実をる。
直4かのに、1億5000万円を超えるが修院の座に振り込まれていた。
いずれも、消えた老たちの名義だった。
藤堂は静かに答えた。
「信者の方々が自発に寄された献です」
言葉はっていた。
類も完璧だった。
だが、何かが腑に落ちなかった。
警察はまず、修院の厨裏で会った配達係の女性に声をかけた。
その女性はの商から材を届けている桐葉子だった。