"神戸の熊と33人の組" 第1話
1913328。
徳島県美町。
と川に囲まれた静かなで、の男の子がまれた。
名は、田岡雄。
に「本の親分」と呼ばれ、本最級の暴力団組織へ成する代目組を率いることになる男である。
しかし、まれた瞬の彼のに、将来の栄を予させるものなど何つなかった。
むしろ、その幼期は孤独との戦いから始まっていた。
田岡がこの世にまれる、すでに父親はくなっていた。
族を支える柱を失ったは、決して裕福とは言えなかった。
母親は幼い子供たちを抱えながら必に活を守ろうとしていたが、運命はさらに残酷だった。
田岡がまだ幼い頃、母親も病でくなった。
父親も母親もいない。
温かい庭の記憶も、親に甘えるも分にはなかった。
幼い田岡に残されたのは、兄弟たちとの別れと、自分の力できていかなければならないという現実だった。
やがて田岡は故郷をれ、兵庫県神戸にむ叔父のへ引き取られることになる。
まだ何も分からない齢のにとって、見らぬへ向かうことがどれほどだったのか。
徳島のや川をれ、神戸というきなで暮らすことになった田岡は、しい環境ので、自分の居所を探していくことになる。
神戸で田岡を育てた叔父は、現輸送関係ので現監督をしていた。
広告
仕事に対しては厳格な物だった。
しかし、その厳しさは庭のでも変わらなかった。
嫌が悪ければ鳴る。
気に入らないことがあればがる。
幼い田岡は、毎のようにのの変化をじながら活していた。
今はらせてはいけない。
今は話しかけない方がいい。
相の表や声を読む。
そんな習慣が、幼い頃から自然とについていった。
、田岡雄は「を見る力があった」と語られることになる。
相が何を考えているのか。
どこでり、どこで迷うのか。
その瞬の判断力。
それはまれ持った才能だけではなく、孤独な代ににつけたきるための能力でもあった。
代の田岡は、決してしい子供ではなかった。
むしろ、負けず嫌いで気がかった。
度決めたことは簡単には曲げない。
相がくれば、自分も引かない。
その性格は、周囲のたちから見ても目つものだった。
やがて田岡は現の学にあたる等学を卒業する。
当、くのたちは卒業すぐに働き始めた。
田岡もまた、きるために仕事を探した。
そして、神戸の巨である川崎造所へ就職することになる。
当の川崎造所は、本でも数の規模なだった。
くの労働者が集まり、朝から晩まで械音が響き渡る所。
広告
田岡はそこで職として腕を磨き、真面目に働けば将来を築けるとっていた。
しかし、彼の激しい気性が、そのを変えることになる。
入社して3目の頃だった。
あるの作業、田岡は現主任と論になった。
原因はさな見のい違いだったと言われている。
しかし、若い田岡にとって、から押さえつけられるような言葉は簡単に受け流せるものではなかった。
「なぜ自分だけが責められるのか」
そんないが胸のに広がった。
周囲の作業員たちが見守る、の言い争いは次第に激しくなっていく。
そして――。
田岡の拳がいた。
現主任を殴ったことで、田岡は職をることになった。
定した仕事を失った。
まだ若かったが、帰る所も、頼れる族もなかった。
神戸のを歩きながら、田岡は何度も考えた。
これから自分はどうきていけばいいのか。
真面目に働くかられてしまった自分に、何が残されているのか。
答えは見つからなかった。
ただつ分かっていたことは、もう以のような活には戻れないということだった。
そんなあるのことだった。
田岡はで、偶然の男と再会する。
「……雄か?」
声をかけてきたのは、学代の同級だった。
懐かしい顔だった。
故郷をれてから、昔の友と会うことなどほとんどなかった田岡にとって、その再会は久しぶりにじる温かさだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第9話
スズメバチ事故の遺言
1997年、長野県の山あいにある蜂蜜の町で、72歳の養蜂家・松吉が蜂場で倒れているのが見つかった。 首にはいくつもの刺し跡。そばには倒れた巣箱。長年蜂を扱ってきた男が、スズメバチに刺されて命を落とした――誰もがそう信じ、事件は不幸な事故として閉じられた。 しかし8年後、取り壊し前の作業小屋の床下から、古びた缶が見つかる。 中に入っていたのは、封のされた手紙、1本の注射器、そして「7月10日 松」とだけ書かれた謎のメモ。 父の死は本当に事故だったのか。 なぜ松吉は、防護網も薬も持たずに蜂場へ向かったのか。そして、彼の体に残されていた“蜂毒ではない反応”とは何だったのか。 閉じられたはずの夏の日が、1本の注射器によって再び動き出す。 これは、正直に生きた養蜂家と、彼の最後を知る友、そして8年後に父の本当の思いを知る娘の物語。ミステリー|遺體発見1.3萬字5 27 -
完結第6話
白い車の義兄
1996年秋、小田原で就職面接に向かった23歳の女性・糸うまゆは、そのまま帰らなかった。 面接先には到着しておらず、最後に目撃されたのは、白い車に乗り込む姿だった。家族は必死に行方を探し、兄は町中にチラシを貼り、義兄の高志もまた献身的に捜索を手伝っていた。 しかし、警察の捜査は決定的な証拠に届かないまま行き詰まっていく。 白い車、公衆電話、消えた4時間。そして、まゆが失踪前に友人へ漏らしていた義兄への不安。 それでも家族は、高志を疑うことができなかった。 7年後、高志の新しい妻が見つけた一枚の写真をきっかけに、止まっていた事件が再び動き出す。 まゆはなぜ面接へ向かわなかったのか。 そして、7年間家族のそばで悲しむふりをしていた男の本当の素顔とは――。ミステリー|行方不明9.5千字5 36 -
完結第7話
地図にない赤札の家
山奥にぽつんと建つ一軒家を訪ねる、テレビ番組の取材企画。 ディレクターの上田とカメラマンの山辺は、衛星写真に映った信越地方の山中の一軒家へ向かう。だが、近くの集落でその場所を尋ねると、住人たちは一様に顔を曇らせた。 「そこには行かない方がいい」 それでも2人は、地図にも載らない細い山道を進んでしまう。 長い山道の先に現れた古い母屋。窓の奥からこちらを見つめる無表情な男。壁一面に貼られた赤い札。そして、朽ちた畜舎の中から響き始める、無数の獣の鳴き声。 慌てて逃げ出した2人だったが、帰り道の集落には一軒の明かりも灯っていなかった。 あの家には、いったい何があったのか。 そして、窓からこちらを見ていた男は、本当に“住人”だったのか――。ミステリー1.1萬字5 50 -
完結第11話
蜂蜜先生の救命列車
10年間、国境なき医師団として世界中の命を救ってきた外科医・涼介。 しかし最愛の母を救えなかった後悔から、彼は白衣を脱ぎ、医師としての道を離れる決意をして故郷へ向かっていた。 大雨の夜、乗っていた最終列車が豪雨で緊急停止する。蒸し暑い車内に不安が広がる中、1人の女子高生が突然倒れ、意識を失ってしまう。 泣き叫ぶ母親。動揺する乗客たち。救急車もすぐには来られない状況で、涼介は静かに告げた。 「誰か、ハチミツを持っていませんか」 その一言をきっかけに、止まった列車の中で小さな奇跡が起こり始める。 過去を捨てようとしていた医師が、もう一度“救う意味”を取り戻していく、命と再生の物語。真相1.6萬字5 280 -
完結第12話
母を捨てた凍夜
1996年、兵庫県北部の山間にある小さな介護施設で、78歳の中村はる子が忽然と姿を消した。 家族のために働き続け、厳しい姑に仕え、息子の学費のために娘の人生まで犠牲にしてきたはる子。だが夫の死後、財産はすべて長男夫婦のものとなり、認知症が始まった彼女は、やがて山奥の施設へ送られる。 面会に来ない息子夫婦。滞納される施設費。寂しさの中で、はる子が待ち続けていたのは、たった一人、娘の由紀子だけだった。 そして12月15日の夜。 「娘さんが迎えに来ていますよ」 職員のその一言を信じ、はる子は真冬の闇の中へ歩き出す。 翌朝、彼女の姿は施設から消えていた。警察の捜索もむなしく、事件は未解決のまま時だけが過ぎていく。 しかし1年後、施設の古い倉庫から見つかった“白いもの”が、家族と職員たちが隠していた真実を暴き始める。 はる子は本当に自分で出て行ったのか。 そして、最後の夜に何が起きていたのか――。ミステリー|真実|行方不明|介護1.9萬字5 186 -
完結第15話
7年目の地下貯蔵庫
2004年、仙台の古い路地にあるラーメン屋で、24歳の女性アルバイト・伊藤葵が突然姿を消した。 弟の学費を支え、母のために懸命に働いていた葵。荷物も通帳も残したまま消えた彼女を、周囲は「東京へ行ったのだろう」と噂した。警察も家出として処理し、母だけが「葵はそんな子じゃない」と信じ続けた。 それから7年後。 再開発で取り壊されることになったラーメン屋の地下から、白骨化した若い女性の遺体が見つかる。そこは、長年、濃厚なスープの匂いに覆われていた店の奥深く――釜の裏に隠された地下貯蔵庫だった。 葵は本当に自分の意思で消えたのか。 あの夜、閉店後の店で何が起きたのか。 7年間、湯気と匂いの下に隠され続けた真実が、ついに動き出す。ミステリー|真相|行方不明2.2萬字5 246 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 509 -
完結第11話
消えた五輪候補
昭和59年、ロサンゼルスオリンピックの代表候補だった21歳の体操選手・高橋明子は、最終選考を目前に控えていた。 貧しい家庭に生まれ、父の期待を一身に背負い、痛む足首を隠しながら練習を続けていた明子。彼女にとってオリンピックは、自分だけの夢ではなく、家族の人生を変える最後の希望でもあった。 しかし、最終選考の日。 結果発表の直前、明子は訓練センターの中で忽然と姿を消す。ロッカーは空になり、荷物も見つからず、防犯カメラにも外へ出た姿は映っていなかった。 厳しすぎるコーチ、勝利を争うライバル、そして妹の成功を複雑な思いで見つめていた兄。 誰が明子を消したのか。なぜ、建物の中から出ていないはずの少女は見つからなかったのか。 1年後、改装工事中のロッカールームで、壁の奥に隠されていた“あるもの”が発見される。 その瞬間、父が待ち続けた1年と、明子が背負っていた夢の本当の悲劇が明らかになる――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 230