"蜂蜜先生の救命列車" 第3話
何より、この程度の暑さと湿度で鳴り散らすほどを表にす乗客がいることに、本らしい平さをじた。
だが、その次の瞬。
の席で、ゴトリと鈍い音がした。
「ちょっと、! どうしたの? しっかりして!」
母親の鳴が内に響いた。
俺は反射にちがった。
のボックス席を見ると、娘の方が座席から崩れ落ち、に倒れていた。体が刻みに震えている。母親は青ざめた顔で娘の肩を抱き、名を呼び続けていた。
「誰か助けて! うちの子が痙攣を起こしているんです!」
その声に、内がざわついた。
しかしには嫌そうな声もあった。
「うるさいな。具が悪いのはみんな同じなんだよ」
「げさにするなよ」
俺はその言葉を聞くより先に、体がいていた。
「どうしました?」
母親のそばに膝をつく。
「俺は医者です。ちょっと様子を見させてください」
母親は泣きそうな顔で何度もをげた。
「ありがとうございます。この子はです。野といいます。私は母親の恵です」
俺はをそっとに寝かせた。
内のはかったが、今は姿勢をえることが先だった。を横に向け、呼吸の通りを確保する。次に元で声を張った。
「さん。野さん。俺の声が分かりますか。分かったら、指をかしてください」
俺はのを握った。
しかし握り返す反応はなかった。
広告
識は混濁している。
すぐに呼吸と脈を確認した。
呼吸は荒く、脈も速い。皮膚はたく、は驚くほど細かった。
俺は状況を素く組みてた。
直の会話。
事を抜いている様子。
細すぎる体。
そして痙攣と識障害。
「血糖だ」
俺がつぶやくと、そばにいた乗客が首をかしげた。
「血糖?」
俺はの状態を見ながら、簡潔に説した。
「血液のブドウ糖が枯渇して、脳がエネルギーに陥っている状態です。すぐに糖分を補しないと危険です」
恵が震える声で言った。
「どうすればいいんですか」
「応急処置は2段階です。まず蜂蜜や砂糖など、吸収のい糖分をのの粘膜から補する。その、経補液で分と解質をえます」
俺はちがり、暗い内に向かって声を張った。
「誰か蜂蜜を持っていませんか? の駅で産に買った方はいませんか?」
乗客たちが互いの顔を見わせた。
「蜂蜜?」
「どういうこと?」
俺はになりすぎないように識しながら説した。
「甘いものが必です。み込めなくても、頬の内側に塗れば粘膜から吸収できます」
なぜ俺が蜂蜜を求めたのか、この方をらないには分からなかっただろう。
実は、の駅のくには質な蜂蜜の製造所があり、駅の売にも瓶入りの蜂蜜が置かれている。観客や帰省客が産に買っている能性があった。
広告
内の奥から、老婦の声がした。
「ちょうど買ったところよ。孫が蜂蜜が好きだから。これでその子が助かるなら使ってちょうだい」
俺はすぐにそちらへ向かった。
暗い内灯を頼りにむと、品のいい老婦がさな瓶を差ししてくれた。ありがたいことに、袋のにはさなスプーンも入っていた。
「お借りします」
俺は礼を言い、のもとへ戻った。
膝をつき、の顔にづく。スプーンに蜂蜜を取り、元へ運ぶ。
識が混濁している状態で無理にみ込ませるのは危険だ。
俺はスプーンを使い、頬の内側の粘膜に蜂蜜をく塗った。
その、スマホのタイマーを15分にセットする。
内は静まり返っていた。
誰もをかなかった。
激しい音だけが、窓を叩き続けていた。
恵は両を胸ので握りしめ、の顔を見つめている。
「……お願い……」
俺はの呼吸を確認し続けた。
脈。
顔。
識反応。
数分が、異様にくじられた。
やがて、の唇がかすかにいた。
「……甘い」
そのさな声を聞いた瞬、恵が息をのんだ。
「ちゃん!」
のまぶたがしずついた。
識が戻り始めている。
恵は泣きながら、内に向かって叫んだ。
「が識を取り戻しました!」
内から、堵の声が斉にがった。
「よかったわ」
「こんな真っ暗な状態で倒れるなんて、怖かっただろうに」
「ひとまず良かったな」
俺は息を吐いた。
だが、緊張はまだ解けなかった。
応急処置で識は戻った。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
7年目の地下貯蔵庫
2004年、仙台の古い路地にあるラーメン屋で、24歳の女性アルバイト・伊藤葵が突然姿を消した。 弟の学費を支え、母のために懸命に働いていた葵。荷物も通帳も残したまま消えた彼女を、周囲は「東京へ行ったのだろう」と噂した。警察も家出として処理し、母だけが「葵はそんな子じゃない」と信じ続けた。 それから7年後。 再開発で取り壊されることになったラーメン屋の地下から、白骨化した若い女性の遺体が見つかる。そこは、長年、濃厚なスープの匂いに覆われていた店の奥深く――釜の裏に隠された地下貯蔵庫だった。 葵は本当に自分の意思で消えたのか。 あの夜、閉店後の店で何が起きたのか。 7年間、湯気と匂いの下に隠され続けた真実が、ついに動き出す。ミステリー|真相|行方不明2.2萬字5 206 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 330 -
完結第8話
排水路の腕時計
1998年10月、家族旅行の帰りに立ち寄った青日サービスエリアで、42歳の父・佐藤健一が突然姿を消した。 「ちょっとトイレに行ってくる」 そう言って席を立ったきり、健一は二度と家族の前に戻らなかった。車も財布も荷物も残されたまま。警察犬の臭いは、なぜかトイレの前で途切れていた。 防犯カメラの映像は、最も重要な25分間だけ欠落。目撃者もなく、手がかりもないまま、事件は未解決のまま年月だけが過ぎていく。 夫を待ち続ける妻。父の帰りを信じる子どもたち。だが15年後、サービスエリアの再開発工事中、排水路の奥から錆びた腕時計と革靴、そして泥にまみれた財布が見つかる。 そこに刻まれていたのは、失踪した父の名前だった。 あの日、トイレへ向かった健一に何が起きたのか。なぜ遺留品は排水路に隠されていたのか。 15年の沈黙を破って現れた証拠は、家族が待ち続けた真実の扉を、静かに開いていく――。ミステリー|真相|行方不明1.2萬字5 186 -
完結第10話
偽りのアリバイ
家中に無惨に横たわる妻の遺体。下半身を露出させられ、まるで強盗性的被害の偽装現場が完成していた。 通報を受け駆けつけた義母の前で、夫・白田は崩れ落ち、絶望の涙を流し続けた。 誰もがこの男を、最愛の妻を失った哀れな夫だと信じた。 だが、その悲痛な演技の裏には、悪魔が幾晩も練り上げた完璧な殺人シナリオが隠されていた。 妻を惨殺した直後、彼は自ら現場を荒らし、他人のタバコの吸い殻をばらまき、強盗犯の仕業に偽装した。指紋を一つ残らず拭き取り、痕跡を完全に消し去ったつもりだった。 さらに彼は、最も残酷な手段でアリバイを固めた。 眠っていた5歳の幼い娘を起こし、誰もいない玄関に向かって「ママにバイバイしなさい」と命令。 防犯カメラに、母親を見送る無邪気な子供の姿を収めさせ、家族全員が無事に家を離れた完璧な証拠を自作したのだ。真相|遺體発見|行方不明1.5萬字5 2754 -
完結第16話
臓器密売 闇の惨劇
2025 年、福岡より広がった衝撃的な未解決事件をご存知でしょうか。 糸島沖の海岸に、日本人男性の下半身だけの切断遺体が次々と漂着しました。 背後には国際的な臓器密売組織が暗躍していました。 深夜の代行運転手、小さな食堂の店主、短期通訳アルバイト…… 何の落ち度もない一般市民が高額報酬の誘いに乗り、拉致され、臓器を摘出される被害に遭ったのです。 捜査により一部構成員は逮捕されましたが、組織の黒幕は海外へ逃亡。 人々の臓器を摘出していた執刀医も海へ飛び込み、今も行方不明のままです。 事件は完全に解決していません。 夜遅く一人で外出する際、見知らぬ人物の高額バイトの誘いには細心の警戒を。 ご両親や子供、ご近所の方にもシェアし、身の安全を呼びかけましょう。真相|遺體発見|行方不明2.5萬字5 332 -
完結第6話
母への誹謗中傷――山梨キャンプ場女児失踪事件の深すぎる闇
【母親に誹謗中傷】許せない… 闇が深すぎる山梨キャンプ場女児失踪事件の真相 2019 年秋、山梨の人気キャンプ場で起きた 7 歳女の子の神隠し事件をご存じでしょうか。 紅葉で賑わう連休、多くの家族が楽しんでいる中、小学 1 年生の小村み咲ちゃんが、たった 15 分の間に忽然と姿を消しました。 周りにはたくさんの大人や子供がいたのに、誰一人彼女の行方を目撃した人がいなかったのです。 警察や自衛隊、ボランティア合わせ延べ 1700 人もの大捜索が行われ、ヘリコプターやドローン、捜索犬まで総動員されました。 しかし数日間、女の子の痕跡一つ見つからず、現地での捜索は打ち切られてしまいます。 娘を失った両親は毎日現地へ通い、チラシを配り、情報を探し続けました。 ところがネット上に根拠のない悪い噂が広まり、何も悪いことをしていない母親が執拗な誹謗中傷に苦しめられました。 「泣いていない」「美容院へ行った」「募金は金目当て」など、心無い言葉が次々と届き、悲しみの上にさらなる苦しみが重なったのです。 後に中傷した人は裁判で罰せられ、噂も完全に嘘だと証明されましたが、家族の傷は簡単に癒えるものではありません。 約 2 年 7 ヶ月が過ぎた 2022 年、キャンプ場から 600 メートル離れた山林で女の子の遺骨と靴、服が発見されました。 DNA 鑑定の結果、み咲ちゃんのものだと確定し、家族は娘の死を受け入れる決心をしました。 だけど今も多くの謎が残っています。 7 歳の子供一人ではたどり着けない急斜面の奥、大規模捜索では見つからなかった理由、遺留品の不自然な点、死因も特定できていません。 事故なのか、誰かに連れ去られたのか、今なお真相は闇の中です。 この事件は子供を見守る大切さ、キャンプ場などレジャー施設の安全の課題、そしてネットの誹謗中傷の恐ろしさを私たちに教えてくれます。 同じ親世代、祖父母世代の方にぜひ読んでいただきたい一冊です。真相|行方不明9.6千字5 250 -
完結第16話
歪んだ執着
2020 年、横浜で刑事と真剣に交際していた女性が突如姿を消した。 周りはただの家出だと思っていたが、一年後に明かされた真実は誰もが想像できない衝撃の内容だった。 市民を守る立場の警察官が抱える歪んだ執着、恋人同士のすれ違い、同僚同士の確執…… 失踪事件から二重殺人へと繋がった悲劇の全貌をお話しします。 昔から事件・失踪物語が好きな方、横浜在住の方はぜひ最後までご覧ください。真相|遺體発見|行方不明2.4萬字5 324 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 259 -
完結第6話
誰も疑わなかった視線
ただの村の失踪事件だと誰もが思っていた。 しかしそこには、執拗なストーカー、崩壊する家庭、隠された学校の不祥事、 そして誰もが信じて疑わなかった「模範的な青年」の裏の顔が隠されていた。 パーティーの夜、わずか 20 分で消えた少女。 残された自転車、殺された飼い犬、「全て知っている」意味深なメモ。 幾重にも張り巡らされた偽りの手がかりを抜け、 一年後、山奥で発見された遺体がすべての真実を語る。 信頼こそが最も危険な凶器となる。 沈黙の村で一人の少女が最後まで抵抗し、泣き、闘った記録。 衝撃のノンフィクション事件譚、ここに完結。真相|遺體発見|行方不明8.7千字5 115 -
完結第9話
消えた人妻と15年の嘘
1997年、埼玉県の大型スーパーの駐車場で、31歳の人妻・佐藤ゆみが忽然と姿を消した。 車の鍵は地面に落ち、買い物袋はそのまま。防犯カメラには、車へ向かう直前、何かに気づいたように振り返る彼女の姿が残されていた。 夫にとって、ゆみは穏やかで完璧な妻だった。だが、彼女には奇妙な空白があった。家族も友人も紹介せず、過去を一切語ろうとしない。まるで3年前に突然現れたかのような女性だった。 捜査が進むにつれ、隠された携帯電話、謎の送金、存在しない口座、そして「姉さん」と呼ばれる人物の存在が浮かび上がる。 さらに、ゆみの失踪は15年前に起きたある死亡事故とつながっていた。 彼女は本当に誘拐されたのか。 それとも、自ら消えなければならない理由があったのか。 平凡な人妻の裏に隠されていた“もう1つの名前”。 その正体が明らかになる時、埋もれていた過去の罪もまた、静かに姿を現す。ミステリー|真相|行方不明1.3萬字5 778