みかん小説
本棚

"蜂蜜先生の救命列車" 第2話

そして願が叶い、俺は医師になった。

それから10、世界を渡り歩いた。

その、母に会えたのは数えるほどだった。

母がい病にかかったとった、俺はい国の診療所にいた。

連絡を受けた瞬が真っになった。

俺は取るものもとりあえず帰国した。乗れるを探し、移も何度も病院へ話をかけた。

何とか最にはった。

病院のベッドに横たわる母は、俺の記憶よりずっとさく見えた。痩せたが布団のに置かれている。その指先を握ると、母はゆっくり目をけた。

「涼介……」

声はかすれていた。

俺は母のを両で包んだ。

「母さん、帰ってきたよ」

母は俺の顔を見つめ、したように微笑んだ。

「お母さんにとって、あなたは誇りよ」

それが、母が俺に向けてくれた最のはっきりした言葉だった。

母はその、静かに目を閉じた。

そして度と目覚めなかった。

葬儀の、俺は抜け殻のようになった。

国境なき医師団に戻る気力が湧かなかった。

俺は医者になった。

世界くのを救ってきた。

それなのに、自分の母を救うことはできなかった。

母が病に苦しんでいる、俺はい国での命を救っていた。

その事実が、胸にくのしかかった。

もちろん、では分かっている。

医師でも救えない命はある。

どれだけ技術があっても、わないことはある。

広告

それでもは納得しなかった。

母を失ったショックから、俺は団体を辞めた。

父だけが残った田舎の実へ帰ることにした。

こうして今、俺は故郷へ向かう最終列にいる。

は田舎らしい2両編成だった。古いタイプのボックス席が並び、乗客同士の距い。の席の会話も、ろの席で眠る男のいびきも聞こえる。

ただ、その夜はの音があまりにもかった。

むにつれ、脚は激しくなっていった。窓に粒のが打ちつけ、の景は黒くにじんでいる。夜ということもあり、窓の向こうに見えるものはほとんどなかった。

内の照もどこか頼りなく、乗客たちの顔は様に冴えなかった。

俺は座席に体を預け、ぼんやりと音を聞いていた。

のボックス席には、母娘らしい2が座っていた。

くらいの女の子と、その母親。

母親はに持ったおにぎりを、娘に何度も差ししていた。

「お昼もろくにべなかったじゃないの。そんな活をしていたら倒れてしまうわ。さあ、これべて」

娘は顔をそむけた。

「お腹が空いたらべるからいいわよ。お母さんは配しすぎ」

配もするわよ。に痩せていくじゃないの。ダイエットしているのなら、もっと健康なやり方にしなさい」

「うるさいなあ。黙っててよ」

広告

俺は聞きてながら、しだけ苦笑した。

こういう親子の会話は、どこにでもある。

若い娘は細い体型に憧れるものだ。名なアイドルや俳優が、細すぎるほどの体を保っているのを見て、ああならなければくないとってしまうのだろう。

医師として、最本の女たちの痩せ方にはを覚える。

けれど俺は、ずっと貧しい国の々を相に医療をしてきた。

彼らはべたくてもべられなかった。

その現実を見続けてきた俺には、ダイエットのために事を抜くという考えが、どこか贅沢に聞こえてしまうところがあった。

そのだった。

ガタン、ときな音がして、列が急ブレーキをかけた。

体がきく揺れる。

幸い、っている乗客はいなかった。転んで怪をしたもいないようだった。

俺はすりをつかみ、ほっと息を吐いた。

やがて内アナウンスが響いた。

「ただいま豪のため、運止しております。ご迷惑をおかけしますが、々そのままでお待ちください」

その瞬、乗客たちから満の声ががった。

「なんだよ。空調、止まったのか」

「この暑さじゃ参っちまう。誰か窓をけてくれ」

「窓なんかけられないわよ。りよ。が入ってくるだけだわ」

「俺は暑いのが苦なんだよ」

「そんなのみんな同じだろう。

しろ」

俺はさく首を横に振った。

田舎のい列だ。

都会のい編成に比べれば、復旧もいだろう。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: