"7年目の地下貯蔵庫" 第6話
解剖と鑑定を担当した法医学者は、遺体を慎に調べました。
骨の状態から見て、くなってからなくとも7から8は経っているようでした。遺体の主は、若い女性でした。や骨格、歯の状態から推測すると、20歳から30歳のでした。
法医学者は、さながかりも見逃すまいと努めました。骨の節々を調べ、歯を1本1本覗き込みました。いが流れ、くのものが消えっていました。
けれど、骨は嘘をつきませんでした。
骨は、そのがどのようにんだのかを、静かに証言していたのです。
そして法医学者は、1つのな事実を発見しました。
蓋骨のろ側に、い衝撃を受けた痕跡がくっきりと残っていたのです。
単に転んだり、何かにぶつけたりしてできた傷ではありませんでした。鈍器のようなものでく殴られた跡でした。
つまり、この女性は事故でんだのではありません。
誰かに殺害されたのです。
そのらせを聞いた警察署の刑事課はざわめきました。
この事件を担当することになったのは、刑事でした。その44歳。7、葵の報告を見て「再確認すること」とき残した、あの刑事でした。
今では刑事課のとして、事件を引っ張るになっていました。
は遺体発見のらせを聞き、現へ駆けつけました。取り壊された満作ラーメンの残骸のにった、彼の胸はすっとたくなりました。
広告
見覚えのあるでした。
彼は急いで古い記録をひっくり返しました。
そしてついに、7に自分がし目を通したあの類を見つけました。
単なるとして分類され、類棚の奥くに眠っていた1の女性の方届。
届けには、髪をろで結び、ぎこちなく笑う24歳の女性の写真が貼られていました。
名は、伊藤葵。
方になった所は、仙台のラーメン、満作ラーメン。
の指先が、細かく震えました。
遺体が発見されたのは、まさにあのでした。
7、彼が「再確認すること」とき残し、とうとうくことのなかった事件。
それが今、骨となって戻ってきたのです。
警察は、遺体の元確認に取りかかりました。
古い骨だけでは、それが誰なのかすぐには分かりません。の元を確認するには、血のつながった族のDNAと照らしわせる必がありました。
夫婦のDNAではりません。
親や兄弟のように、同じ血を分けた肉親でなければならないのです。
は、伊藤葵の族の方を探しました。
母親の佳子は、そのも仙台からくない町にんでいました。その57歳。7というは、母親をすっかり老けさせていました。髪にはいものが増え、背もし丸くなっていました。
弟の賢太は、いつのにか派な青になっていました。
広告
姉が送ってくれた学費で学を終え、さな会社に勤めていました。
賢太は、姉をいすたびに胸の奥が痛みました。
世は姉を「族を捨てた娘」と指さしました。けれど賢太は、とてもその言葉を信じることができませんでした。
学費を送ってくれた姉のきのを、彼は今でも切に持っていたからです。
「賢太、勉頑張ってね。お姉ちゃんが助けてあげるから」
そのをいたが、どうして弟を捨てて逃げるというのでしょうか。
賢太はいつもそのしこりを胸に抱えてきていました。
刑事が訪ねてきたと聞いた、佳子は胸が張り裂けそうでした。7、ただの1も忘れたことのない娘の名が、ようやく誰かのからたからです。
「うちの葵……うちの葵のらせですか」
佳子は玄関先でそう尋ねました。
はすぐにはをけませんでした。
目のにいる母親の7をうと、言葉が喉に張りつきました。けれど、黙っているわけにはいきませんでした。
「遺体が発見されました」
は、言葉を選びながら伝えました。
それが娘さんである能性がいこと。
そのため、族のDNAが必であること。
佳子と賢太は、ためらうことなく検査に応じました。
検査を受けにく、佳子は言も話しませんでした。ただに持った娘の古い写真を、何度も見つめていました。
方で、違っていてほしいといました。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
蜂蜜先生の救命列車
10年間、国境なき医師団として世界中の命を救ってきた外科医・涼介。 しかし最愛の母を救えなかった後悔から、彼は白衣を脱ぎ、医師としての道を離れる決意をして故郷へ向かっていた。 大雨の夜、乗っていた最終列車が豪雨で緊急停止する。蒸し暑い車内に不安が広がる中、1人の女子高生が突然倒れ、意識を失ってしまう。 泣き叫ぶ母親。動揺する乗客たち。救急車もすぐには来られない状況で、涼介は静かに告げた。 「誰か、ハチミツを持っていませんか」 その一言をきっかけに、止まった列車の中で小さな奇跡が起こり始める。 過去を捨てようとしていた医師が、もう一度“救う意味”を取り戻していく、命と再生の物語。真相1.6萬字5 133 -
完結第12話
母を捨てた凍夜
1996年、兵庫県北部の山間にある小さな介護施設で、78歳の中村はる子が忽然と姿を消した。 家族のために働き続け、厳しい姑に仕え、息子の学費のために娘の人生まで犠牲にしてきたはる子。だが夫の死後、財産はすべて長男夫婦のものとなり、認知症が始まった彼女は、やがて山奥の施設へ送られる。 面会に来ない息子夫婦。滞納される施設費。寂しさの中で、はる子が待ち続けていたのは、たった一人、娘の由紀子だけだった。 そして12月15日の夜。 「娘さんが迎えに来ていますよ」 職員のその一言を信じ、はる子は真冬の闇の中へ歩き出す。 翌朝、彼女の姿は施設から消えていた。警察の捜索もむなしく、事件は未解決のまま時だけが過ぎていく。 しかし1年後、施設の古い倉庫から見つかった“白いもの”が、家族と職員たちが隠していた真実を暴き始める。 はる子は本当に自分で出て行ったのか。 そして、最後の夜に何が起きていたのか――。ミステリー|真実|行方不明|介護1.9萬字5 149 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 325 -
完結第11話
消えた五輪候補
昭和59年、ロサンゼルスオリンピックの代表候補だった21歳の体操選手・高橋明子は、最終選考を目前に控えていた。 貧しい家庭に生まれ、父の期待を一身に背負い、痛む足首を隠しながら練習を続けていた明子。彼女にとってオリンピックは、自分だけの夢ではなく、家族の人生を変える最後の希望でもあった。 しかし、最終選考の日。 結果発表の直前、明子は訓練センターの中で忽然と姿を消す。ロッカーは空になり、荷物も見つからず、防犯カメラにも外へ出た姿は映っていなかった。 厳しすぎるコーチ、勝利を争うライバル、そして妹の成功を複雑な思いで見つめていた兄。 誰が明子を消したのか。なぜ、建物の中から出ていないはずの少女は見つからなかったのか。 1年後、改装工事中のロッカールームで、壁の奥に隠されていた“あるもの”が発見される。 その瞬間、父が待ち続けた1年と、明子が背負っていた夢の本当の悲劇が明らかになる――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 161 -
完結第8話
排水路の腕時計
1998年10月、家族旅行の帰りに立ち寄った青日サービスエリアで、42歳の父・佐藤健一が突然姿を消した。 「ちょっとトイレに行ってくる」 そう言って席を立ったきり、健一は二度と家族の前に戻らなかった。車も財布も荷物も残されたまま。警察犬の臭いは、なぜかトイレの前で途切れていた。 防犯カメラの映像は、最も重要な25分間だけ欠落。目撃者もなく、手がかりもないまま、事件は未解決のまま年月だけが過ぎていく。 夫を待ち続ける妻。父の帰りを信じる子どもたち。だが15年後、サービスエリアの再開発工事中、排水路の奥から錆びた腕時計と革靴、そして泥にまみれた財布が見つかる。 そこに刻まれていたのは、失踪した父の名前だった。 あの日、トイレへ向かった健一に何が起きたのか。なぜ遺留品は排水路に隠されていたのか。 15年の沈黙を破って現れた証拠は、家族が待ち続けた真実の扉を、静かに開いていく――。ミステリー|真相|行方不明1.2萬字5 186