みかん小説
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"残高4800円の老後" 第8話

「はい」

せつ子が哲夫のに湯みを置いた。

「ありがとう」

哲夫は湯気の向こうにある計簿を見た。

「今気代、先より1200円がってるな」

「エアコンのフィルターを掃除したからね。あと、あなたが夜気をつけっぱなしにしなくなったから」

哲夫は苦笑した。

「すまん」

朝のがテーブルの計簿を照らしていた。

15分。

毎朝、たったそれだけだった。

けれどその15分が、宮田やりになっていた。

その、哲夫はセダンを放した。

代わりに買ったのは、古のい軽自だった。以のセダンの半分もないきさだったが、燃費も税もずっとかった。

で、哲夫はその軽自根をで撫でた。

ワックスもいコーティングもしていない。

けれど洗だけは自分でしていた。

ホームセンターで買い、物置に眠っていたスポンジを使って。

ある、藤原とファミレスで会った。

「せつ子さんとはどうだ」

藤原が尋ねた。

哲夫はんで答えた。

「毎朝15分、お茶をみながら計簿を見てる」

藤原は笑った。

「俺と同じだな」

「おのところに追いつくには、あと5かかる」

「追いつかなくていいんだよ。続けていれば分だ」

会計の、哲夫はレシートを受け取った。

1890円。

昔なら、くしゃっとポケットに突っ込んでいた。

だが今は、丁寧に折って財布にしまった。

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あのの2万8600円のレシートとは違う。

哲夫は、もう見栄のために財布をくことをやめていた。

夜、に帰ると、せつ子が計簿をいていた。

、卵が特売なのよ」

「いくらだ?」

「198円」

哲夫はし笑った。

いな。買おう」

せつ子もさく笑った。

それは何でもない会話だった。

けれど、かつて哲夫が避け続けていた会話でもあった。

退職を守るために必だったのは、きな投資識でも、特別な節約術でもなかった。

族で話しうこと。

の範囲で暮らす仕組みを作ること。

現役代の“普通”を疑うこと。

子どもへの援助は、自分たちの老を守ったうえで考えること。

そして、毎朝15分でも向きうこと。

哲夫は、そのすべてを遅れて学んだ。

失ったものはきかった。

通帳の2200万円は、もう戻らない。

せつ子を傷つけたも、消すことはできない。

けれど、4800円の夜がすべての終わりではなかった。

そこから、ようやく彼は自分の老と向きい始めた。

朝のキッチン。

2つの湯みから、湯気がっていた。

窓のからが差し込み、かれた計簿のに静かに落ちている。

哲夫は湯みを両で包み、向かいに座るせつ子を見た。

「今の予定、何かあるか」

せつ子は計簿から顔をげた。

「卵を買いにくくらいね」

緒にくよ」

せつ子はし驚いた顔をしたあと、静かにうなずいた。

「じゃあ、お願いするわ」

それはさな再発だった。

退職2200万円を失った男が、最に取り戻したもの。

それはおではなく、妻と同じテーブルに座り、緒に考えるだった。

― 完 ―

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