"残高4800円の老後" 第7話
ラジオもついていない。窓に映る自分の顔を見て、哲夫は改めて痩せたとった。頬がこけ、ポロシャツの襟が浮いている。
「親父」
也が信号待ちでをいた。
「なんだ」
「母さんのところに着いたら、俺はで待ってる。2で話してこいよ」
哲夫は首を横に振った。
「いや、おも来てくれ。おので言わないといけないことがある」
也はそれ以聞かなかった。
娘のアパートは、さな2DKだった。
インターホンを押すと、しがあってドアがいた。
せつ子がっていた。
彼女は哲夫を見て、痩せたことに気づいた。だが何も言わなかった。隣に也がいることに、しだけ驚いた顔をした。
さなテーブルを挟んで、哲夫とせつ子が向かいって座った。也はしれた所にっていた。
哲夫はテーブルのにを置いた。
そのが震えていた。
何度かをきかけ、閉じた。
ようやく声をした。
「せつ子」
せつ子は黙って見ていた。
「俺は38、会社で報告、連絡、相談が事だって部に言ってきた。なのに、では1度もおに相談しなかった」
哲夫は元を見つめたまま続けた。
「通帳を緒に見ようとしなかった。おが話しおうって言ってくれた、『にしてくれ』で全部ふたをした」
せつ子の表は変わらなかった。
「検が18万円だって言われたも、軽に変えようって言ってくれたも、卵の値段を聞かれたも、俺は何つちゃんと答えなかった」
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哲夫の声が震えた。
「活を変えたくなかったんだ。格好悪い自分を見たくなかった。おのでも、也のでも」
也が息を呑んだ。
哲夫は息子の方を見た。
「也、おに300万円した、俺は親として当然だとった。藤原のところが500万円したと聞いて、乗せしようとすらした」
也は唇を噛んだ。
「あのは、せつ子が何もかけて守ってきた退職だった。おに渡すに、せつ子に言も相談しなかった」
哲夫は両をテーブルに押しつけた。
そして、くをげた。
38スーツを着て通勤した男が、妻と息子ので、さなアパートのテーブルに額がつきそうなほどをげていた。
「すまなかった。せつ子。本当にすまなかった」
エアコンの音だけが聞こえた。
也がをすする音が、さく響いた。
しばらくして、せつ子が静かに言った。
「あなた、顔をげて」
哲夫はゆっくり顔をげた。
せつ子の目も赤かった。
「泣いてほしいんじゃないの。私が5欲しかったのは、ごめんじゃない。緒に考えようの言だったのよ」
哲夫は黙ってうなずいた。
せつ子は指を折りながら言った。
「だから条件をすわ」
「うん」
「1つ、計は2で管理する。計簿は毎週緒に見る」
「守る」
「2つ、5000円以の費は必ず事に相談する」
「守る」
「3つ、毎朝15分、お茶をみながらそののことを話す」
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せつ子は拍置いた。
「これを守れるなら、戻るわ」
哲夫はすぐに答えた。
「守る。全部守る」
その、せつ子は通帳を取りした。
「あなた、1つ見せたいものがあるの」
哲夫が通帳をのぞき込む。
ページには、毎同じ付で5万円の振り込みが並んでいた。
名義は、宮田美咲。
1、2、3。
度も途切れていなかった。
「これ……美咲か」
せつ子はうなずいた。
「美咲さんよ。パートのを増やして、毎5万円ずつ。あなたが返さなくていいって言ったから、1度も欠かさず」
也がさな声で言った。
「美咲が言ってた。お父さんの気持ちはありがたい。でも借りたものは返す。それが私たちののやり方だからって」
哲夫は通帳の振り込みの列を見つめた。
5万円。
5万円。
5万円。
自分が「返さなくていい」「計算なんかいらない」とを振ったあの曜から、美咲はパートを増やして1度も休まず返し続けていた。
この点で、300万円のうち約150万円が返済されていた。
哲夫は何も言えなかった。
目のの5万円の列が、自分のこの5より、はるかに誠実だった。
それから1。
哲夫は清掃のアルバイトを続けていた。
せつ子はスーパーのレジのパートを始めた。
2わせて22万円ほどの収入になった。
朝、自宅のキッチンでは、やかんが湯気をてていた。せつ子がを止め、急須にお湯を注ぐ。
湯みは2つ。
器棚からすのではない。
もう2つとも、テーブルのが定位置に戻っていた。