"残高4800円の老後" 第3話
川崎の方に3LDKでいい物件が見つかったんだけど……」
哲夫はすぐに尋ねた。
「いくらりない?」
也は唇を結んだ。
「が300万円りない」
台所からカレー鍋を持って戻ってきたせつ子のが止まった。
哲夫はほとんどを置かずに言った。
「いいぞ」
也は顔をげた。
「え?」
「300万円くらい、いいって言ってるだろう」
「親父、ちゃんと返す。返済の計算もして……」
「いらないよ、そんなもん。孫に自分の部を作ってやれ。それが親ってもんだ」
せつ子は鍋を持ったまま、言葉を失っていた。
「あなた、退職からすの?」
哲夫はし面倒そうに振り向いた。
「せつ子、蓮のことが先だろう」
也はくをげた。
「親父、ありがとう。本当に助かる」
その、也がふといしたように言った。
「そういえば、藤原さんのところの拓くんもマンション買ったって美咲が言ってた。藤原さん、500万円したらしいよ」
「500万円か」
哲夫の目の奥に、別のがついた。
「也、300万円と言わず、もうし乗せしてやろうか。がい方がローンは楽だろう」
也は慌てて首を振った。
「いや、300万円で分だよ。それ以は……」
「いいんだ。慮するな」
蓮がカレーのルーをにこぼした。
せつ子は黙って布巾で拭いた。
その目は笑っていなかった。
この300万円で、退職は残り1730万円ほどになった。
哲夫は、それでもまだ焦っていなかった。
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2200万円もあったのだから。
まだ分ある。
そうっていた。
退職から2目。
哲夫は、自分が贅沢をしているとはっていなかった。
朝、玄関先でゴルフバッグをに積み込む。ポロシャツにスラックス。靴だけは現役代と同じように、きれいに磨いてある。
「ってくる。今は柴田さんと田さんと回るんだ」
せつ子は玄関にって夫を見た。
「あなた、先もゴルフ3回ってたわよね」
「3回? 2回だよ。1回は練習だったから、あれはノーカウントだ」
「練習でも、交通費とボール代はかかるのよ」
哲夫はし声をくした。
「せつ子。俺は38、毎満員に乗って会社にってたんだぞ。たまのゴルフくらい、いいだろう」
せつ子はそれ以言わなかった。
のエンジン音が鳴り、排気ガスの匂いが玄関先まで届いた。が角を曲がって見えなくなっても、せつ子はしばらくっていた。
エプロンの紐を結び直す。
はない。
ただ、何かをかしていないと、がこぼれそうだった。
別の、哲夫はホームセンターのきな袋を抱えて帰ってきた。
「せつ子、これ見ろ」
のボンネットのに、ワックスとコーティング剤のボトルを並べた。5本のボトル、スポンジ、クロスのセット。
計8500円。
「自分でやるの?」
「当たりだろ。退職してだけはあるんだから。毎週末にやれば、にすよりずっとい」
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哲夫はボトルのラベルを読みながら、施順のところに赤線まで引いていた。
「これ、全部使い切れる?」
「使い切れるよ。に1回やれば半で……」
「半どころか、この量だと3は持つとうけど」
哲夫は顔をげた。
「せつ子、俺が自分のを事にして何が悪いんだ」
「悪くないわよ」
せつ子はく答えた。
それから2週。
哲夫はディーラーのショールームで、の点検が終わるのを待っていた。待のソファに座り、無料のコーヒーをんでいると、担当者がづいてきた。
「宮田さん、点検終わりました。特に問題ありません」
「そうか」
「ただ、1つだけよろしいですか。今、12以お乗りのお客様限定で、ガラスコーティングのキャンペーンをやっていまして。通常8万円のところ、5万5000円です」
哲夫はし迷った。
「自分でやろうとってワックスを買ったんだけどな」
担当者は営業用の笑顔を浮かべた。
「販のワックスも悪くないんですが、正直、持ちが全然違います。ワックスだと1ヶ程度ですけど、ガラスコーティングなら3持ちます。宮田さんのお、すごく事にされているのが分かりますから、それだけのにはプロの仕げが似いますよ」
「3持つのか」
「ええ。しかもキャンペーンは今末までです」
哲夫は財布をした。
「じゃあ、頼むよ」
5万5000円。
カードではなく現で払った。
通帳に記録が残らない方がいい。
そう確に考えたわけではない。
ただ、そうした方がいい気がした。
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