"消えた退院前夜" 第6話
アリバイもある。族が関与している能性はいといます」
田刑事が言った。
黒田警部補は腕を組んだ。
「では病院内で何かあったのか」
「自分でていった能性は」
「財布も保険証も置いて、術の女性が1で夜にか。考えにくい」
「では、誰かに連れられた」
「だが、誰が、なぜ」
2は黙り込んだ。
窓のには静岡の夜が広がっていた。
どこかで子さんはきているのか。
それとも。
黒田警部補はその考えを振り払った。
「、病院の職員全員から話を聞く。何か見落としがあるはずだ」
田刑事は頷いた。
しかし2とも、この事件がどこへ向かうのか、まだ分かっていなかった。
530。
本来なら、子さんが退院するはずのだった。
しかし病のベッドは空いたままだった。ベッドサイドには、まだバッグと着替えが残されている。窓のでは公園の々が初のに揺れていたが、その穏やかさは病の空気とあまりにもかけれていた。
警察の捜査は続いていた。
黒田警部補は病院の全職員から事を聴取することにした。午9から聞き込みが始まった。医師、護師、事務職員、清掃員、警備員。527の夜に病院にいた全てのが対象だった。
会議には1ずつ呼ばれ、同じような質問が繰り返された。
「527の夜、どこにいましたか」
「何か変わったことはありませんでしたか」
広告
「田子さんを見ましたか」
最初に呼ばれたのは、科部の佐藤医師だった。
「27の夜、どこにいらっしゃいましたか」
「自宅です。午7頃に帰宅しました」
「田さんの容体について、何か気になることはありませんでしたか」
「いえ。順調に回復していました。特に問題はないとっていました」
佐藤医師は落ち着いた様子で答えた。黒田警部補は特に疑わしい点をじなかった。
次に夜勤の護師たちが順番に呼ばれた。鈴さん、本さん、そしての護師たち。しかし誰も決定な報を持っていなかった。
「夜、何か変わったことはありませんでしたか」
「いえ、いつも通りの夜勤でした」
「審な物を見ませんでしたか」
「見ていません」
同じような質問と、同じような答えが続いた。
昼になり、事務職員や清掃員の聴取が始まった。そのに、薬剤課の黒田という女性職員がいた。41歳、この病院に15勤めていた。
黒田警部補と同じ苗字だったため、田刑事は瞬だけ顔をげたが、すぐにメモへ線を戻した。
薬剤課の黒田は、落ち着いた様子で子に座った。髪をろで1つにまとめ、の袖をきちんとえていた。
「527の夜、あなたはどこにいましたか?」
「薬剤課です。午8頃まで残業していました」
「何の作業ですか?」
「薬品の庫理です。末なので、棚卸しの準備をしていました」
広告
「1でですか?」
「はい。いつも私が担当しています」
「8以は?」
「帰宅しました」
「誰か見送ったは?」
「いえ。裏から1でました。警備員に鍵をけてもらいました」
黒田警部補はメモを取った。
「田子さんという患者さんをっていますか?」
「いえ、じげません。薬剤課なので、患者さんと直接接することはほとんどありませんから」
答えは自然だった。声も落ち着いていた。緊張している様子もなく、ごく普通の職員に見えた。
「分かりました。ありがとうございました」
薬剤課の黒田は静かにちがり、会議をていった。
そのろ姿を、田刑事がじっと見ていた。
「どうしました?」
黒田警部補が尋ねると、田刑事は首を横に振った。
「いえ、何でもありません」
夕方まで聴取は続いた。しかし力な報は何も得られなかった。
黒田警部補は疲れた表で警察署に戻った。デスクに座り込み、事件の資料を見つめた。
「がかりが全くない」
田刑事も隣で資料をめくりながら言った。
「病院ので消えたとしかえませんが……」
「だが、どうやって。誰が」
2は再び沈黙した。
6に入った。
子さんが消えてから1週が経った。聞にはさな記事が載った。
「病院で女性患者失踪」
それだけだった。
域の々はしざわついたが、やがて常に戻っていった。商ではいつも通り買い物客が歩き、病院にもしい患者が訪れた。
けれど、田ではが止まったままだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
蜂蜜先生の救命列車
10年間、国境なき医師団として世界中の命を救ってきた外科医・涼介。 しかし最愛の母を救えなかった後悔から、彼は白衣を脱ぎ、医師としての道を離れる決意をして故郷へ向かっていた。 大雨の夜、乗っていた最終列車が豪雨で緊急停止する。蒸し暑い車内に不安が広がる中、1人の女子高生が突然倒れ、意識を失ってしまう。 泣き叫ぶ母親。動揺する乗客たち。救急車もすぐには来られない状況で、涼介は静かに告げた。 「誰か、ハチミツを持っていませんか」 その一言をきっかけに、止まった列車の中で小さな奇跡が起こり始める。 過去を捨てようとしていた医師が、もう一度“救う意味”を取り戻していく、命と再生の物語。真相1.6萬字5 133 -
完結第12話
母を捨てた凍夜
1996年、兵庫県北部の山間にある小さな介護施設で、78歳の中村はる子が忽然と姿を消した。 家族のために働き続け、厳しい姑に仕え、息子の学費のために娘の人生まで犠牲にしてきたはる子。だが夫の死後、財産はすべて長男夫婦のものとなり、認知症が始まった彼女は、やがて山奥の施設へ送られる。 面会に来ない息子夫婦。滞納される施設費。寂しさの中で、はる子が待ち続けていたのは、たった一人、娘の由紀子だけだった。 そして12月15日の夜。 「娘さんが迎えに来ていますよ」 職員のその一言を信じ、はる子は真冬の闇の中へ歩き出す。 翌朝、彼女の姿は施設から消えていた。警察の捜索もむなしく、事件は未解決のまま時だけが過ぎていく。 しかし1年後、施設の古い倉庫から見つかった“白いもの”が、家族と職員たちが隠していた真実を暴き始める。 はる子は本当に自分で出て行ったのか。 そして、最後の夜に何が起きていたのか――。ミステリー|真実|行方不明|介護1.9萬字5 149 -
完結第15話
7年目の地下貯蔵庫
2004年、仙台の古い路地にあるラーメン屋で、24歳の女性アルバイト・伊藤葵が突然姿を消した。 弟の学費を支え、母のために懸命に働いていた葵。荷物も通帳も残したまま消えた彼女を、周囲は「東京へ行ったのだろう」と噂した。警察も家出として処理し、母だけが「葵はそんな子じゃない」と信じ続けた。 それから7年後。 再開発で取り壊されることになったラーメン屋の地下から、白骨化した若い女性の遺体が見つかる。そこは、長年、濃厚なスープの匂いに覆われていた店の奥深く――釜の裏に隠された地下貯蔵庫だった。 葵は本当に自分の意思で消えたのか。 あの夜、閉店後の店で何が起きたのか。 7年間、湯気と匂いの下に隠され続けた真実が、ついに動き出す。ミステリー|真相|行方不明2.2萬字5 206 -
完結第11話
消えた五輪候補
昭和59年、ロサンゼルスオリンピックの代表候補だった21歳の体操選手・高橋明子は、最終選考を目前に控えていた。 貧しい家庭に生まれ、父の期待を一身に背負い、痛む足首を隠しながら練習を続けていた明子。彼女にとってオリンピックは、自分だけの夢ではなく、家族の人生を変える最後の希望でもあった。 しかし、最終選考の日。 結果発表の直前、明子は訓練センターの中で忽然と姿を消す。ロッカーは空になり、荷物も見つからず、防犯カメラにも外へ出た姿は映っていなかった。 厳しすぎるコーチ、勝利を争うライバル、そして妹の成功を複雑な思いで見つめていた兄。 誰が明子を消したのか。なぜ、建物の中から出ていないはずの少女は見つからなかったのか。 1年後、改装工事中のロッカールームで、壁の奥に隠されていた“あるもの”が発見される。 その瞬間、父が待ち続けた1年と、明子が背負っていた夢の本当の悲劇が明らかになる――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 161 -
完結第8話
排水路の腕時計
1998年10月、家族旅行の帰りに立ち寄った青日サービスエリアで、42歳の父・佐藤健一が突然姿を消した。 「ちょっとトイレに行ってくる」 そう言って席を立ったきり、健一は二度と家族の前に戻らなかった。車も財布も荷物も残されたまま。警察犬の臭いは、なぜかトイレの前で途切れていた。 防犯カメラの映像は、最も重要な25分間だけ欠落。目撃者もなく、手がかりもないまま、事件は未解決のまま年月だけが過ぎていく。 夫を待ち続ける妻。父の帰りを信じる子どもたち。だが15年後、サービスエリアの再開発工事中、排水路の奥から錆びた腕時計と革靴、そして泥にまみれた財布が見つかる。 そこに刻まれていたのは、失踪した父の名前だった。 あの日、トイレへ向かった健一に何が起きたのか。なぜ遺留品は排水路に隠されていたのか。 15年の沈黙を破って現れた証拠は、家族が待ち続けた真実の扉を、静かに開いていく――。ミステリー|真相|行方不明1.2萬字5 186