"五度目のドタキャン弁当" 第9話
「え? あ、あら。じゃあ慮しておくわ」
あの件以来、トメはすっかりはるき君のお父さんが苦になったらしい。
全ては自分で招いた結果だった。
そのの運会は、本当に楽しかった。
ゆいはアンカーとして堂々とり、はるき君もきな声で応援してくれた。昼休みには、私の唐揚げとはるき君のお母さんのサンドイッチをみんなで分けった。
「やっぱりこの唐揚げ、最です」
はるき君が笑うと、ゆいが得げに言った。
「でしょ。ママの唐揚げは世界なんだから」
私は照れながらも、の底から嬉しかった。
あの、余ってしまった弁当がつないだ縁。
それは、姑に振り回されて傷ついた私たちにとって、いがけない贈り物だった。
あれから15が経った。
今は、学の運会で選抜リレーをやる学もなくなったらしい。レジャーシートを広げてでお弁当をべることも、昔ほど当たりではなくなったと聞く。
し寂しいけれど、そういう代なのだろう。
それでも、あの頃の運会はやっぱり楽しかった。
々、私は当の写真を眺める。
朝く起きてお弁当を作ったこと。
所取りをしたこと。
の音を図に庭へ向かったこと。
子どもたちの声が響き、親たちがで応援したこと。
今えば、全部が宝物のようなだった。
そして今は、娘の結婚式だった。
広告
控で見たゆいは、真っなドレス姿で、し照れながら笑っていた。あの運会の、リレーで全力疾していた女が、今はになり、嫁としてっている。
私は胸がいっぱいになった。
「ママ、泣くのいよ」
ゆいが笑う。
「だって、きれいなんだもの」
「ありがとう」
その隣にっているのは、15の運会で唐揚げを頬張っていた男の子。
はるき君だった。
今はもう派な青になり、緊張した表で胸を張っている。あの、子のつばをいじりながらそうにしていた男の子と同じ物だとはえないほど、頼もしく見えた。
「お義母さん」
はるき君がし照れながら私に声をかけた。
「15の唐揚げ、今でも覚えています」
私はわず笑った。
「そんなに?」
「はい。あの、すごく嬉しかったんです。1でどうしようとっていたに、ゆいがを引っ張ってくれて、志帆さんが笑って迎えてくれて」
はるき君はゆいを見た。
「たぶん、あのからずっと、ゆいのことが特別だったんだといます」
ゆいは顔を赤くした。
「そんなこと、今言わなくてもいいでしょ」
私は涙をこらえきれなかった。
あの、姑に約束を破られ、りとしみでいっぱいだった。
量の弁当が無駄になったとった。
けれど、それは無駄ではなかった。
余った唐揚げが、1の男の子を笑顔にした。
広告
その男の子が、娘の隣にっている。
こんな未来につながるなんて、あのの私はってもいなかった。
式の扉がき、いが差し込む。
ゆいが父親の腕にを添えた。
夫は緊張した顔でっていたが、目元はすでに赤かった。
私はその姿を見ながら、のでそっと呟いた。
トメは、結局この式には来ていない。
応、らせはした。けれど、ゆい自が「呼ばなくていい」とはっきり言った。
「あのには、私の切なに来てほしくない」
それが娘の答えだった。
私はそれを尊した。
族だからといって、何をされても許さなければならないわけではない。約束を破られ続け、傷つけられ続けたは、簡単に元には戻らない。
方で、男族ともトメの距は戻らないままだと聞いている。けれど、トメがしでも自分と向きっているのなら、それでいいとった。
私たちはもう、彼女の気まぐれに振り回される活から抜けしたのだから。
式が始まった。
バージンロードを歩くゆいのろ姿を見ながら、私は15の庭をいしていた。
運をかぶったゆい。
箱いっぱいのお弁当。
「ママ、よかったね。いっぱい作って正解だったね」
あの言が、私を救ってくれた。
そして本当に、その通りになった。
披宴で、はるき君のお父さんが私にづいてきた。
今も変わらず落ち着いた雰囲気で、優しい笑顔を浮かべている。
「志帆さん、あのは本当にありがとうございました」
「こちらこそ。あの、はるき君がべてくれたおかげで、私の気持ちも救われたんです」
はるき君のお母さんも隣で笑った。
「唐揚げが結んだご縁ですね」
私は笑いながら頷いた。
「本当にそうですね」
やがて、郎婦が並んでった。
ゆいはし照れながら、それでも幸せそうに笑っている。はるき君はその隣で、彼女を守るようにっていた。
私は両を胸のでわせた。
「2とも、お幸せにね」
声にすと、涙がこぼれた。
あの、踏みにじられたとったお弁当は、決して無駄ではなかった。
約束を破ったがいたからこそ、会えたがいた。
傷ついた娘がいたからこそ、を差し伸べられた相がいた。
運会の庭で交わされたさな優しさが、15の今、こんな形で実を結んだ。
私は拍ので笑った。
もう、誰かのわがままに振り回されるだけの私ではない。
娘もまた、自分を傷つける相から距を置き、切にしてくれるを選んだ。
それが、何より嬉しかった。
いドレスの裾がを受けて揺れる。
ゆいとはるき君が、未来へ向かって歩きす。
その背を見送りながら、私はもう度、ので言った。
あののお弁当は、無駄じゃなかった。
本当に、作ってよかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
冷えた雑煮の逆転正月
元日の夜、シンガポール出張から1日早く帰国した佐藤健一は、実家の食卓に妻・弓の席だけがないことに気づく。 暖かい居間では、母と弟が豪華なおせちを囲んで笑っていた。だが弓は、冷え切った台所の隅で、たった1人、冷たい雑煮をすすっていた。 15年間、夫の不在中に何が起きていたのか。 赤切れた手、擦り切れたカーディガン、使わせてもらえないお湯。そして、父が遺したはずの3000万円の預金に残されていた、不可解な出金記録。 健一は怒りを飲み込み、その場では何も言わなかった。 翌朝、妻を呼び出した彼は、ついに決断する。 だが金庫を開けた時、そこにあったのは消えた遺産だけではなかった。弓の名前が書かれた、覚えのない離婚届。そして母と弟が隠していた、さらに深い裏切りの証拠。 元日の冷たい台所から始まった夫婦の反撃は、やがて家族の嘘を一つずつ暴いていく――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 8 -
完結第11話
保険金つき同居
夫を亡くし、一人暮らしを続けていた70歳の渡辺みよ子。 息子夫婦から「もう一人で頑張らなくていい」と言われ、長年暮らした家を売り、その1500万円を新居の購入資金に充てて同居を始めた。 最初は、家族に囲まれた穏やかな老後が始まるはずだった。 しかし2ヶ月も経たないうちに、生活費の負担、食事の制限、通帳の管理要求……みよ子の居場所は少しずつ奪われていく。 そんなある日、ゴミの中から見つけたのは、自分を被保険者にした生命保険の書類だった。 そして深夜1時。 二階の寝室から聞こえてきた息子夫婦の会話で、みよ子はすべてを知る。 家族だと思っていた人たちは、いつから自分の老後ではなく、自分の財産を見ていたのか。 震える手で録音ボタンを押したその夜から、70歳の母の静かな反撃が始まった。人生逆転|親子関係1.7萬字5 0 -
完結第12話
午前3時の離婚届
午前3時17分。夫・俊介は帰ってこなかった。 その夜、日本へ戻ってきていたのは、夫の“初恋の女性”だと思っていた田中雪。彼女のSNSには、高層ホテルの夜景、二つのワイングラス、そして私が夫に贈ったはずの腕時計が写っていた。 3年間、木村家の嫁として髪も服も仕事も変え、良い妻になろうとしてきた私。けれど夫が本当に優しくしていた相手は、私ではなかったのかもしれない。 そう思った朝、私は義母に離婚届を差し出し、1億2000万円を受け取って家を出た。 だが数日後、夫は離婚届を握りしめ、泣きながら私を捜し始める。 初恋の女性、隠された写真、失くしたはずのブレスレット。 私たちの結婚は、本当に嘘から始まっていたのか――。嫁姑|不倫1.8萬字5 5 -
完結第14話
身代わり妻の逆転帰還
夫の代わりに罪を被り、2年間刑務所で耐え続けた佐藤由美。 亡き父が残した会社を守るため、そして夫・健一を信じるために、彼女はすべてを背負った。だが出所の日、ようやく帰った家で待っていたのは、姑の平手打ちと、夫から投げつけられた離婚届、そして若い愛人の勝ち誇った笑みだった。 「前科者のくせに、まだうちの息子と暮らす気なの?」 すべてを失ったように見えた由美は、泣き崩れることなく、ただ一本の電話をかける。 刑務所で出会った一人の女性。亡き父が残していた最後の言葉。仏壇の下に隠されたUSBメモリ。 2年前の事件は、本当に由美の罪だったのか。 翌日から、夫と愛人、そして由美を切り捨てた家族の嘘が、静かに崩れ始める――。嫁姑|夫婦2.1萬字5 0 -
完結第12話
タダ宿の代償
64歳の佐々木敦子のもとに、久しぶりに長男・大輔から電話がかかってきた。 連休に家族で帰ってくるという話に、最初は孫に会える喜びを感じた敦子。だが大輔は、当然のようにこう言った。 「母さんの家に泊まるから。ホテル代もかからないし」 しかも泊まりに来るのは、息子一家だけではなかった。嫁の両親、妹夫婦、友人夫婦まで含めた総勢10人。食事、布団、タオル、駐車場、留守番まで、敦子の家はいつの間にか“無料の宿”として扱われていた。 それでも家族のためならと我慢しかけた敦子だったが、旅行の三日前、切れていなかった電話の向こうから、息子夫婦の本音を聞いてしまう。 「母さんの家使えばタダじゃん」 「お母さんってちょろいよね」 その瞬間、敦子の中で何かが静かに切れた。 この家は、3500万円を出して自分が買った家。誰かが当然のように使っていい場所ではない。 翌日、敦子は弁護士へ相談し、玄関の鍵を替える。 そして連休当日。何も知らずに10人で家の前へやって来た息子夫婦を待っていたのは、もう開かない玄関だった――。親不孝|親子関係1.9萬字5 0 -
完結第12話
義母ATM、ハワイへ消ゆ
67歳のみち子は、息子夫婦と孫たちを迎えるため、今年も静かに正月の準備を始めていた。 ところがクリスマスの朝、嫁の歩美から突然告げられる。 「今年は15人で行きますから」 食事、寝具、お年玉、観光費まで、すべて義母であるみち子が用意する前提。さらに歩美は、SNSでみち子を「ATMみたい」と笑い、長年の援助まで馬鹿にしていた。 37年間働き、息子夫婦に2500万円以上を援助してきたみち子は、その日ようやく気づく。 自分は家族に大切にされていたのではない。都合よく使われていただけだったのだ。 そして12月29日。 15人が玄関前に集まった時、家の鍵は開かなかった。 その頃みち子夫婦は、すでに日本にはいなかった――。ATM扱い|親子関係1.8萬字5 0 -
完結第10話
形見を捨てた嫁の代償
妻の三回忌の日、68歳の竹内正男は、久しぶりに帰ってくる息子一家のため、亡き妻がよく作っていた煮物と甘い卵焼きを用意していた。 孫に妻の思い出を伝えようと、正男は40年間大切に使われてきた花柄のエプロンを見せる。それは妻が家族のために台所に立ち続けた証であり、正男にとって何より大切な形見だった。 しかし嫁の彩花は、そのエプロンを何のためらいもなくゴミ袋へ放り込む。 「古いものは整理した方がいいですよ」 その一言で、正男の中の何かが静かに崩れた。 ところがその後、彩花は仏壇の横に置かれた一通の封筒を見つける。そこに書かれていたのは、マンション2棟と預金3000万円、そして遺言書という文字。 次の瞬間、さっきまでゴミ扱いしていた形見を、嫁は突然「大切にします」と言い出した。 形見の本当の価値は、金で測れるものなのか。 亡き妻が残したエプロンをめぐり、家族の本音が静かに暴かれていく。親不孝|親子関係1.5萬字5 0 -
完結第12話
娘の遺した手紙
娘の葬儀を終えたその夜、43歳の佐藤陽子は夫から家を追い出された。 「もうお前を置いておく理由はない」 20年間支えてきた夫から浴びせられた冷たい言葉。さらに夫は、亡くなったばかりの娘の保険金を手に入れようとしていた。 しかし、夫が知らなかったのは、陽子が何も持たない専業主婦ではなかったこと。 祖父から受け継いだ700億円規模の資産、そして夫の裏切りを暴くために動き始めた秘密の調査。 やがて明らかになる、娘の死に隠された真実。 最後まで母を思い続けた娘が残した一通の手紙が、止まっていた家族の時間を動かし始める――。夫婦|親子関係1.8萬字5 310 -
完結第10話
捨てられた妻の逆転相続
十年間、義母の介護を一人で背負い続けた妻・恵子。 しかし、四十九日の法要が終わった直後、夫から告げられたのは「もう君の役目は終わった」という冷たい離婚宣告だった。 家族のために尽くしてきた年月を、ただの「役目」としか見ていなかった夫と息子。 何も言い返さず家を出た恵子だったが、翌日、誰も知らなかった一通の封筒が加納家で見つかる。 そこに記されていた亡き義母の最後の意思が、家族の運命を大きく変えていく――。嫁姑|夫婦|介護1.4萬字5 707 -
完結第12話
家賃55万の置き土産
夫の家族と13年間暮らしてきたまゆ子は、ある日突然、義母から告げられる。 「里帰り出産で長男夫婦が来るから、あなたは明日までに出ていって」 家族のために尽くしてきたはずだった。血のつながらない息子にも、義母にも、夫にも、ずっと気を遣ってきた。けれど義母にとって、まゆ子はもう“用済み”の存在でしかなかった。 しかも夫は出張と偽り、別の女性と会っている疑いまで浮かび上がる。 翌日、まゆ子は言われた通り家を出ることにした。 ただし、何もかも置いていくつもりはなかった。 月55万円の家賃を払っていたのは誰なのか。リビングを埋める家具家電を買ったのは誰なのか。 まゆ子が引っ越し業者に告げた一言で、義母たちの“幸せな同居計画”は静かに崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.8萬字5 592