"7時15分の黒い日記" 第6話
叔父は、誰かに取り返しのつかないことをしたのだ。
さらに別のノートには、所がかれていた。
浜松れ、旧倉庫。彼女はそこで眠っている。僕だけがっている。誰にも見つからない。永に僕のもの。
健はしばらくけなかった。
これは妄なのか。それとも本当なのか。
しかし、付、刻、所、物への執着。あまりにも具体だった。
翌、健は浜松警察署を訪れた。
応対したのは、かつて子の事件を担当した本警部補だった。本はノートを受け取り、ページをめくった。読みめるうちに、その表はくなっていった。
「これは……吉田子さんの事件だ」
健は息を呑んだ。
「実際の事件だったんですか」
本は静かに頷いた。
「昭561113、29歳の員女性が失踪しました。当、佐藤茂を疑いましたが、証拠がありませんでした」
本は記を閉じ、部を呼んだ。
7に止まっていた事件が、再びきした。
記に記された所をもとに、警察は捜索を始した。
浜松れには、昭40代に閉鎖された古い跡がいくつか残っていた。そのの1つ、旧浜松繊維跡が力な所として浮かびがった。昭48に閉鎖されて以来、建物は荒れ果て、がづかない所になっていた。
昭63122、捜査チームは旧跡へ入った。
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雑が腰のさまで伸び、崩れかけた建物の壁にはひびがっていた。記には、の側、煙突から50m、古い事務所の裏と詳細な図が描かれていた。
その記述をたどると、雑に覆われた階段が見つかった。
階段の先には、錆びた鉄の扉があった。扉は半ば壊れており、簡単にいた。
倉庫は湿気がく、懐灯のがなければ奥が見えないほど暗かった。捜査員たちは慎にんだ。
奥のコンクリート壁のくに、自然にが盛りがった所があった。
本警部補はい声で言った。
「ここを掘ってくれ」
を掘り返すと、い布が現れた。さらに慎に掘りめると、骨が姿を現した。の部も残っていた。紺のスーツ、いブラウス。そしてくには、腐した革製の鞄があった。
鞄のから、員証が見つかった。
名は、吉田子。
本はく息を吐いた。
「やはり……本当だったのか」
遺骨は学の法医学教に運ばれ、鑑定がわれた。、体格、歯の治療痕、所持品、すべてが子のものと致した。因は首を圧迫されたことによる窒息と判断された。
昭63125、警察は浩に連絡した。
浩はすでに再婚し、しい庭を築いていた。それでも話で、彼の声は震えた。
「妻が……見つかったんですか」
本は静かに答えた。
「はい。残ながら、ご遺体で発見されました」
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浩はい、何も言えなかった。
やがて絞りすように言った。
「犯は……」
「当バスの運転をしていた佐藤茂です。すでにくなっていますが、記に犯の記録が残されていました」
浩のに、7の子の声がよみがえった。
「誰かに見られている気がするの」
あの、自分は笑った。
神経過敏だと言った。
仕事で疲れているのだろうと片づけた。
浩は受話器を握りしめたまま、声を失った。
子の母にも連絡が入った。7、娘の帰りを待ち続けていた母は、らせを聞くと泣き崩れた。
「やっと帰ってくるんですね。7も待ちました。でも、こんな形で帰ってくるなんて」
1210、子の遺骨は族のもとに戻った。遅すぎる葬儀がわれた。僧侶の読経が響く、母はさな骨壺を抱きしめ、何度も語りかけた。
「怖かったでしょう。辛かったでしょう。もう丈夫だからね。お母さんのそばにいなさい」
浩はその姿を見つめながら、い悔に押しつぶされていた。
もっと妻の話を聞いていれば。
もっと真剣に向きっていれば。
あの300mの夜を、1で歩かせなければ。
しかし、は戻らなかった。
事件は聞できく報じられた。
「7の員女性失踪事件、真相は運転の執着」
「記に綴られた3の観察記録」
「平凡な常に潜んでいた恐怖」
佐藤の同僚たちはをそろえて言った。
「普通のに見えました。真面目で、問題を起こすようなには見えなかった」
けれど、その“普通”の裏側で、佐藤は3、子を見続け、記録し、妄を膨らませていた。
子は声をげていた。
誰かに見られている。
怖い。
助けてほしい。
しかし、その声は届かなかった。
夫は神経過敏だと笑い、姑は働いているからだと責めた。社会もまた、女性のを真剣に受け止めるほど成熟していなかった。
平成の代が始まる頃、浜松では夜バスの全対策、防犯設備、乗客からの相談体制がしずつ見直されていった。
けれど、それは子の命が戻ることをしなかった。
母は仏壇ので、毎線をげた。
「子、よく頑張ったね。もう苦しまなくていいのよ」
静かな煙が、写真のをゆっくり昇っていく。
その写真のの子は、員らしい控えめな笑顔を浮かべていた。
毎朝同じバスに乗り、真面目に働き、でも職でも責任を果たしていた普通の女性。
その普通の常のすぐそばに、誰にも見えない狂気が潜んでいた。
そして7、1冊の記が、ようやく彼女の声をこの世に戻した。
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