"7時15分の黒い日記" 第4話
子は真面目で穏やかな性格だった。関係のトラブルもなく、仕事ぶりも評価されていた。親睦会ではし酒をんでいたが、酔するほどではなく、21頃には笑顔で同僚たちに別れを告げていた。
「吉田さんは、また曜に、と言ってを振っていました」
同僚の1は、震える声でそう証言した。
次に、子が利用したはずのバス線が調べられた。バス会社に確認すると、そのの2130分発のバスは通常通り運されていた。運転は佐藤茂。43歳のベテラン運転だった。
警察は佐藤を参考として事聴取した。
1116、佐藤は警察署に任同された。本警部補が質問を始めた。
「1113曜、2130分発のバスを運転されていましたね」
「はい、その通りです」
佐藤は落ち着いた様子で答えた。
「その、員の若い女性の乗客を覚えていますか」
佐藤はし考えるそぶりを見せた。
「曜の夜は乗客がなかったですが、具体には覚えていません。何かのお客様がいたといます」
「女性がどこでりたかは?」
「申し訳ありません。記憶にありません。夜のバスは暗く、11の顔までは確認していないんです」
佐藤の態度は終始静だった。
警察は佐藤の自宅アパートを調べたいと考えたが、本は拒否した。
「令状がなければ見せられません。私は何も悪いことはしていません」
広告
当、確な証拠がなければ制な捜索はできなかった。佐藤には科もなく、同僚たちの評判も良い。警察はく疑う材料を持っていなかった。
方で、子の族への聞き込みもわれた。
浩は泣きながら訴えた。
「妻は真面目なです。するような理由はありません。何かに巻き込まれたとしかえません」
姑の静も取り乱していたが、からたのは悔ではなく、責める言葉だった。
「あの子が夜遅くまで働くから、こんなことになったんです。私は反対していたんです」
警察は子の帰宅経を調べた。バスから自宅までは徒歩で約5分。わずか300mの距だった。
その300mので何が起きたのか。
隣民への聞き込みがわれたが、力な報は得られなかった。
ある民は言った。
「そのの夜10頃、バス通りの方から女性の声が聞こえた気がしました。でも、はっきりとは分かりません」
別の民も似たような話をしたが、決定な証言にはならなかった。
子の財布、鞄、所持品は何も見つからなかった。代の求もない。
事件は、が過ぎるほどにいのへ沈んでいった。
佐藤はそのも、普段通りバスを運転し続けた。
何事もなかったかのように。
ただ、彼の部の押し入れの奥には、真実が几帳面な文字で閉じ込められていた。
広告
昭57、しいがけても、子は戻ってこなかった。
捜査本部は縮され、事件は未解決事件として記録された。それでも本警部補は、のどこかで佐藤のことが引っかかっていた。
事聴取での佐藤は、落ち着きすぎていた。記憶にないという答えも、どこかいすぎていた。
しかし証拠がない。
刑事としての直だけでは、男を追い詰めることはできなかった。
子の夫、浩の活も変わっていった。最初の数かは、妻が帰ってくると信じて待ち続けた。毎晩、玄関の鍵をけ、子が戻ってきたにすぐ入れるようにしていた。
しかしが経つにつれ、周囲は彼に「へめ」と言うようになった。
姑の静は言った。
「もう諦めなさい。あの子はもう帰ってこない。あんたはまだ若いんだから、をやり直しなさい」
浩は最初、く反発した。
「妻を諦めるなんてできない。まだどこかできているかもしれない」
けれど静は、何度も縁談を持ち込んだ。職の司も見い話を勧めた。
昭59、浩は再婚した。
相は26歳の元女性だった。しく、従順な性格のだった。のから、子の持ち物はしずつ片付けられていった。写真は仏壇の奥にしまわれ、常ので子の名がにされることは減っていった。
方、佐藤は変わらずバスを運転していた。
毎朝、715分の留所を通るたび、佐藤はそこに子の姿を見るような気がした。
紺のスーツ。いブラウス。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
新潟校十二年の悪闇
1992年、新潟県小学校女教師失踪事件|12年後、校長の醜悪な裏顔がついに暴かれた 1992年、新潟の田舎町小学校で、一人の30代女性教師が忽然と姿を消した。 通学路、自宅、学校施設、周辺の山林……警察が徹底的に捜索したものの、彼女の痕跡は一つも見つからなかった。 当時、失踪は「自発的な家出」「遠方への転居」と断定され、事件は迷宮入り。 誰もがこの謎を忘れかけた12年間。 誰も信じなかった真実が、ついに白日の下に晒される。 穏やかで人格者と慕われていた校長先生。 その裏に隠された、人間性を失った醜悪な素顔。 女教師が二度と帰らなかった本当の理由、閉ざされた学校の闇、隠蔽された12年の悪事―― 全ての真相が今、明かされる。因果応報|裡の顔|遺體発見|行方不明1.7萬字5 0 -
完結第6話
43番の帰還
9年前、京都の住宅街で小学2年生の少女・彩佳が忽然と姿を消した。 公園で遊んでいたはずの娘は、夕方になっても家に戻らなかった。警察も住民も必死に捜索したが、目撃者も手がかりもなく、事件は未解決のまま時間だけが過ぎていく。 そして9年後のある朝。 1人の少女が、古びた行方不明者のチラシを手に警察署へ現れる。彼女は受付で静かに告げた。 「私は……彩佳です」 戻ってきた少女の手には、「43」と刻まれた小さな真鍮のタグがあった。さらに彼女は、自分が名前ではなく番号で呼ばれていたこと、他にも“42”や“44”がいたことを語り始める。 単なる誘拐ではなかった。 家族の家に隠されていた地下室、壁に刻まれた迷路、死んだはずの男の名前、そして母が隠していた「クレア」という過去。 9年間消えていた少女は、なぜ今になって戻ってきたのか。 そして彼女が最後まで忘れなかった「消さないで」という声の正体とは――。因果応報|人生逆転|行方不明9.0千字5 1 -
完結第10話
白いドレスの告白
昭和57年、東京のホテルで行われた一つの結婚式。 純白のドレスに身を包んだ花嫁・田中京子は、幸せの絶頂にいるはずだった。だが披露宴の途中、高校時代の同級生たちが口にしたある名前を聞いた瞬間、彼女の表情は凍りつく。 佐藤美智子。 8年前、昭和49年の伊豆旅行中に忽然と姿を消した、京子の親友だった。 「美智子ちゃん、ごめんなさい……」 化粧室で泣き崩れる花嫁の声を、偶然聞いてしまった同級生。その一言をきっかけに、未解決のまま眠っていた失踪事件が再び動き出す。 親友との再会、伊豆の夜、月明かりの展望台。 8年間、誰にも言えなかった嫉妬と罪が、花嫁の白いドレスの下から静かにこぼれ落ちていく――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 211 -
完結第8話
十年目の数珠
昭和60年、長野県の山奥にある古い寺で、参籠会に参加していた印刷所経営者・田中誠が忽然と姿を消した。 朝4時のお勤めの時間になっても現れず、部屋には畳まれた布団と鞄だけが残されていた。財布も着替えもそのまま。だが、彼がいつも手にしていた茶色い数珠だけが消えていた。 事業の不振、義弟との対立、取引先との金銭トラブル、そして最後に田中と会話していた若い僧侶――。 疑われる者はいた。けれど、決定的な証拠は何一つ見つからず、警察は田中が自ら山に入った可能性が高いと判断する。 それから10年後。 寺の修繕工事中、かつて若い僧侶が使っていた部屋の床下から、田中の数珠が発見される。 なぜ、消えた男の数珠が僧侶の部屋に隠されていたのか。 山寺に沈黙していたあの夜の真実が、10年の時を経て静かに動き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 0 -
完結第8話
消された天才少女の証明
1896年、東京帝国大学の数学演習室。 誰もいないはずの夜の教室で、黒板に残された未解決問題が、何者かによって解かれていた。 大学院生たちが数週間かけても辿り着けなかった証明。その式を直したのは、清掃員の母に連れられて校舎に入っていた、わずか12歳の少女・黒田ハナだった。 学校にも通えず、浅草の長屋で貧しく暮らしていた彼女。しかしその頭脳は、帝国大学の教授たちでさえ説明できないほど異質で、圧倒的だった。 だが、時代は彼女を“天才”とは呼ばなかった。 下層出身の少女であること。女子であること。正式な教育を受けていないこと。そのすべてが、彼女の才能を認めない理由にされた。 やがてハナは、学ぶ者ではなく“研究対象”として扱われ、歴史の表舞台から姿を消していく。 そして1964年。 大阪の古い長屋で、無名の女性が残した大量の紙束が見つかる。そこに記されていたのは、日本の学術史を根底から揺るがす、ある理論の原型だった。 黒田ハナとは何者だったのか。 そして、彼女の名はなぜ歴史から消されたのか――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 18 -
完結第6話
松の根の告発
2008年の梅雨の夜、都内の10億円の豪邸から、70代の母と40代の長女が忽然と姿を消した。 玄関の鍵は開いたまま。台所には作りかけの料理、寝室には飲まれないままの薬。金庫の中の現金や貴金属は手つかずで、強盗の形跡もない。 ただ、防犯カメラだけが不自然に切られていた。 疑いの目を向けられたのは、海外出張中だった末の息子・西村匠。だが彼には、ホテルの記録、カード決済、目撃証言までそろった完璧なアリバイがあった。 事件は未解決のまま15年が過ぎ、匠は莫大な遺産を受け継ぎ、慈善家として世間の表舞台に立つようになる。 しかし2023年、豪邸の解体工事中、庭の松の木の下から古い2つ折り携帯が発見される。 そこに残されていたのは、長女が命の最後に録音した“ある声”だった。 15年間、コンクリートの下で眠っていた母娘の真実が、ついに動き出す――。ミステリー|行方不明9.0千字5 148