"白いドレスの告白" 第5話
京子は美智子の横にち、同じようにを見た。
のでは、複雑ながさらに膨らんでいた。
美智子は夜のを見つめながら、また話し始めた。
「実はね、最初は京にるのが怖かったの。らないで1暮らしなんて、だった。でもい切って挑戦してよかった。いろんなと会えて、素敵なとも会えて」
京子は黙って聞いていた。
京にく勇気もなく、元に残った自分。
美智子のように何もかもに入れることができなかった自分。
その差が、今この所で、はっきりと見える気がした。
美智子が振り返った。
「ねえ、京子ちゃんは幸せ?」
突然の質問に、京子は言葉に詰まった。
どう答えればいいのか分からなかった。
美智子は配そうに続けた。
「ごめんね。変なこと聞いちゃって。ただ、京子ちゃんにも幸せになってほしいなってって。結婚だけが幸せじゃないけど、でも、素敵な会いがあればいいなって」
その言葉は、美智子の優しさからたものだった。
京子にもそれは分かった。
分かっていたからこそ、つらかった。
悪気のない優しさは、に相の番い傷を正確にえぐる。
京子はさな声で答えた。
「ありがとう、美智子ちゃん。でも私は、私なりにきていくわ」
美智子はほっとしたように笑った。
「そうよね。余計なお世話だったわ。
広告
でも京子ちゃんは素敵なだから、きっと幸せになれるわよ」
その瞬、京子ので何かが崩れた。
8、押し込めてきた。
憧れ。
羨望。
劣等。
そして嫉妬。
それらが気に胸の奥からせりがってきた。
しばらく2は黙ってを眺めていた。
がしくなり、美智子が寒そうにを縮めた。
「そろそろ戻ろうかしら。しえてきたわ」
京子はうなずいた。
「そうね。戻りましょう」
2は来たを引き返し始めた。
暗い遊歩を歩きながら、美智子はまだの予定を楽しそうに話していた。
「は朝く起きて、もう1度温泉に入りましょう。それから美しい朝ご飯をべて、ゆっくり帰りましょうね」
旅館に戻る途、が2つに分かれている所があった。
1つは旅館へ続くるい。
もう1つは岸沿いの暗い。
美智子がるい方を指差した。
「こっちよね」
京子はうなずいた。
このまま何事もなく旅を終えれば、美智子は幸せな結婚へむ。
自分はまた、変わらない々へ戻る。
その現実が、京子には耐えがたいものにえた。
2は旅館へ向かって歩き続けた。
その、京子のので、ある危険ないがゆっくり形を成していた。
自分でもまだ、その正体を認めることができなかった。
翌朝、曜の午7頃だった。
旅館の廊に、京子の慌てた声が響いた。
広告
「すみません。すみません。誰か来てください」
女将が驚いて部へ駆けつけると、京子が青い顔でっていた。髪は乱れ、目には涙が浮かんでいる。
「友が……友がいないんです」
女将はすぐには状況をみ込めなかった。
「お連れ様が、ですか?」
京子は震える声で説した。
「昨夜から戻ってこないんです。美智子ちゃんが、1で散歩にたまま……」
旅館の主にも連絡が入り、周辺を探すことになった。玄関、浴、廊、庭、くの温泉。だが、美智子の姿はどこにもなかった。
午8、京子は震えるで旅館の黒話を取り、警察に通報した。
ダイヤルを回す指が、刻みに震えていた。
「もしもし、警察ですか。友が方なんです。昨夜から戻ってきていないんです」
伊豆の温泉を管轄する警察署から、佐藤巡査部と若い巡査が駆けつけた。
昭49当、伊豆は観として賑わっていたが、宿泊客の失踪事件は珍しいことだった。
佐藤巡査部は帳を取りし、京子に静かに尋ねた。
「落ち着いて、詳しく教えてください。いつから方が分からないんですか」
京子は涙を浮かべながら答えた。
「昨夜11頃です。美智子ちゃんが、し散歩にってくると言って部をたんです。でも、待っても待っても戻ってこなくて……最初は温泉にでも入っているのかとったんですが、朝になっても戻らないので」
佐藤は帳にきながら質問を続けた。
「お2は緒に散歩にはかなかったんですか」
京子は首を横に振った。
広告
おすすめ作品
-
完結第6話
7時15分の黒い日記
昭和56年、浜松市で29歳の銀行員・吉田道子が忽然と姿を消した。 毎朝7時15分、同じ停留所から同じバスに乗り、銀行へ向かっていた道子。真面目で几帳面な彼女は、ある日から家の前に残る見慣れない吸い殻と、背後からの視線に怯えるようになる。 「誰かに見られている気がする」 そう夫に訴えても、気のせいだと片づけられた。 そして11月の夜、親睦会の帰りに乗ったはずのバスを最後に、道子は家までわずか300mの場所で消息を絶つ。 事件は未解決のまま7年が過ぎた。 昭和63年、1人のバス運転手の遺品から十数冊の日記が見つかる。そこに記されていたのは、道子を3年間見つめ続けた男の、あまりにも歪んだ記録だった――。ミステリー|行方不明9.4千字5 0 -
完結第6話
43番の帰還
9年前、京都の住宅街で小学2年生の少女・彩佳が忽然と姿を消した。 公園で遊んでいたはずの娘は、夕方になっても家に戻らなかった。警察も住民も必死に捜索したが、目撃者も手がかりもなく、事件は未解決のまま時間だけが過ぎていく。 そして9年後のある朝。 1人の少女が、古びた行方不明者のチラシを手に警察署へ現れる。彼女は受付で静かに告げた。 「私は……彩佳です」 戻ってきた少女の手には、「43」と刻まれた小さな真鍮のタグがあった。さらに彼女は、自分が名前ではなく番号で呼ばれていたこと、他にも“42”や“44”がいたことを語り始める。 単なる誘拐ではなかった。 家族の家に隠されていた地下室、壁に刻まれた迷路、死んだはずの男の名前、そして母が隠していた「クレア」という過去。 9年間消えていた少女は、なぜ今になって戻ってきたのか。 そして彼女が最後まで忘れなかった「消さないで」という声の正体とは――。因果応報|人生逆転|行方不明9.0千字5 0 -
完結第8話
十年目の数珠
昭和60年、長野県の山奥にある古い寺で、参籠会に参加していた印刷所経営者・田中誠が忽然と姿を消した。 朝4時のお勤めの時間になっても現れず、部屋には畳まれた布団と鞄だけが残されていた。財布も着替えもそのまま。だが、彼がいつも手にしていた茶色い数珠だけが消えていた。 事業の不振、義弟との対立、取引先との金銭トラブル、そして最後に田中と会話していた若い僧侶――。 疑われる者はいた。けれど、決定的な証拠は何一つ見つからず、警察は田中が自ら山に入った可能性が高いと判断する。 それから10年後。 寺の修繕工事中、かつて若い僧侶が使っていた部屋の床下から、田中の数珠が発見される。 なぜ、消えた男の数珠が僧侶の部屋に隠されていたのか。 山寺に沈黙していたあの夜の真実が、10年の時を経て静かに動き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 0 -
完結第8話
消された天才少女の証明
1896年、東京帝国大学の数学演習室。 誰もいないはずの夜の教室で、黒板に残された未解決問題が、何者かによって解かれていた。 大学院生たちが数週間かけても辿り着けなかった証明。その式を直したのは、清掃員の母に連れられて校舎に入っていた、わずか12歳の少女・黒田ハナだった。 学校にも通えず、浅草の長屋で貧しく暮らしていた彼女。しかしその頭脳は、帝国大学の教授たちでさえ説明できないほど異質で、圧倒的だった。 だが、時代は彼女を“天才”とは呼ばなかった。 下層出身の少女であること。女子であること。正式な教育を受けていないこと。そのすべてが、彼女の才能を認めない理由にされた。 やがてハナは、学ぶ者ではなく“研究対象”として扱われ、歴史の表舞台から姿を消していく。 そして1964年。 大阪の古い長屋で、無名の女性が残した大量の紙束が見つかる。そこに記されていたのは、日本の学術史を根底から揺るがす、ある理論の原型だった。 黒田ハナとは何者だったのか。 そして、彼女の名はなぜ歴史から消されたのか――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 6 -
完結第6話
松の根の告発
2008年の梅雨の夜、都内の10億円の豪邸から、70代の母と40代の長女が忽然と姿を消した。 玄関の鍵は開いたまま。台所には作りかけの料理、寝室には飲まれないままの薬。金庫の中の現金や貴金属は手つかずで、強盗の形跡もない。 ただ、防犯カメラだけが不自然に切られていた。 疑いの目を向けられたのは、海外出張中だった末の息子・西村匠。だが彼には、ホテルの記録、カード決済、目撃証言までそろった完璧なアリバイがあった。 事件は未解決のまま15年が過ぎ、匠は莫大な遺産を受け継ぎ、慈善家として世間の表舞台に立つようになる。 しかし2023年、豪邸の解体工事中、庭の松の木の下から古い2つ折り携帯が発見される。 そこに残されていたのは、長女が命の最後に録音した“ある声”だった。 15年間、コンクリートの下で眠っていた母娘の真実が、ついに動き出す――。ミステリー|行方不明9.0千字5 145 -
完結第10話
画面の中の失踪少年
2021年5月、東京のソフトウェア企業で開かれたオンライン会議。 社長の石川健二は、画面に映った1人の社員の顔を見て、思わず息を止めた。左頬の三日月型の痕、眉の上の細い傷跡。その顔は、25年前に仙台で忽然と姿を消した9歳の少年・高橋奏太とあまりにもよく似ていた。 1996年、学校帰りに消えた奏太。家族は町中を探し続けたが、手がかりは途絶え、やがて事件は未解決のまま時の中に埋もれていった。 しかし25年後、偶然のオンライン会議が止まっていた時間を動かす。 社員として静かに働いていた男は、本当に失踪した少年なのか。なぜ別の名前で生きていたのか。そして、彼の25年間を支配していた人物とは――。 画面越しの違和感から始まった、奇跡の再会と奪われた人生の真実。行方不明|第二の人生1.5萬字5 210